見出し画像

夢という名の記憶~Ⅱ~

 また別の日。また彼女がいた。今度は訓練稽古があった山の中。彼女曰く花見に来たと言ってた。確かに桜が美しく咲き誇っていた。誰も連れはいないのにと少し不思議に思ったが彼女があなたに会いたかったから逃げてきたというさまは子供らしくてかわいらしかった。しかも訓練の終わった直後に現れるのは柄にもなく運命のようなものを感じた。一緒に花を見ていた。桜の吹雪で彼女がいったことが聞こえなかった。でも口の動きで分かった。


「私(わたくし)はね。貴方のことが好きなの」
 冷雅は耳を赤くして言った。
「俺もだ」
 三回しか会っていないくせに自分がよく言えたなと思った。でも彼女がほほ笑んだのを見て言ってよかったとすぐに考えた。彼女の話し方。容姿。そして正直でいて影のある美しい瞳に惚れていることに気づいた。
「またね」
 そして桜吹雪のように突然にいなくなった。

 今度は冷雅は目を覚ました。医者が慌てたように周りを歩いている。羅貴と朔隼そして紅夜は今はいない。


「目覚めましたか。あの三方は別室でお休みになっていますよ」
 侍女が伝えてくれた。
「動かないでください。高熱です。まだ安静にしておいてください。これから何回かこのようなことを繰り返されるかと……疲れがたまっていらしたのではないでしょうか。今日はアルコールを取られたようですから症状が悪化したのかと思われます。解熱剤を飲んでください」
 医者はそういいながら薬と水を差し出した。
「ありがとう」
 冷雅はそういいながら体を起こして薬を受け取った。
「紅夜は落ち着いていたか?」
 侍女に尋ねると
「はい。廊下でしばらく三人で話されていたようですが、それぞれ用意させていただいた部屋でお休みになっていらっしゃいます。紅夜様は少し動揺されていらっしゃいましたが大丈夫だと思われます」
 という答えが返ってきた。

冷雅はハッとここが羅貴の家に泊まった時に泊まっていた羅貴曰く『冷雅専用の部屋』だった。
「そうか。ありがとう。君も休んでくれ」
 冷雅が言うと侍女は礼をして去って行った。自分の服装を見ると着慣れた部屋着だ。薬を飲むとまた視界がぐらりと揺れるような感覚を覚えた。
 カラン
 手から水の入っていたグラスが手から滑り落ちる。冷雅はまたしてもベッドに倒れこんでいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?