ウィスキーの火
朔隼は天皇のいる部屋に立っていた。薄暗く、照明はただ一つろうそくだけだ。
天皇は長椅子にぐったりと座っている。目はどんよりとしており、充血している。奇妙なまでに骨ばっている体だ。軍服を着た骸骨のようにも見える
。
「天皇陛下。朔隼です」
天皇は急に目を輝かせてこちらを見る。その目はまるで魔法使いが現れたのをみる子供のようだった。
「朔隼。座りなさい。さぁさぁ。もう余を襲うものはいないのだろう。これで全部抹殺されたのだろう?」
天皇の声に従って椅子に優雅に座りながら朔隼は答えた。
「最後の詰めですよ。これが終わればあなた様を襲うものはいなくなります。紅夜はもう殺しました」
天皇は恍惚状態だった。ウィスキーの入ったグラスを片手に立ち上がる。ウィスキーがろうそくの光を受けてギラリと輝く。
「本当か……月影家のものはいない……誰にも襲われない。絶対の権力……権力」
そう虚空を見ながらつぶやく。鈍く光る銀色の何かを持って近づいてくる朔隼には気づかない。朔隼はサーベルを抜いた。そしてサッと天皇の横を通る。一呼吸置いた後で天皇が倒れる。わき腹からだらりと血が流れ出ている。
「そうそう。天皇陛下言いませんでしたっけ?私はあなたの味方であり敵ですよ。政治の基本ですからもう少し注意なさったらよかったのに。味方に殺されるのは三流小説によくある展開ではないですか。あと権力と言う名の女性は役者を偏愛するらしいのでね。あなたはただの愚者だ」
そういいながら血の付いた不気味に光るサーベルを鞘に戻す。
「それでは私は親切な人なので火葬までしておきますね」
朔隼はそういうとろうそくをウィスキーと血の赤黒い染みができ始めているカーペットに落とした。
ボォォォォォォォォッ
急激に火が付く。
「やはりアルコ―ルは控えるのがおすすめですよ」
朔隼は足早に机に向かう。そして天皇に前書かせておいた遺言書を取りだし去って行った。
さて、紅夜は私がこの手でじっくり殺してやらないといけないな。可愛い私の囚人さんを。そして我々火影家が権力を持つ。いや、私が持つ。東宮は確かに有能だが私が二三言囁けばもう私の人形に成り下がるだろう。二条院家は……後で首を絞めていったらいい。
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