嘘つきに嘘をつく
朔隼は部屋の中でありとあらゆる部屋に続く盗聴管を聞いていた。羅貴の部屋から女の声がするこれは紅夜だ。朔隼は注意深く聞いていた。
「朔隼について教えてくださいませんか」
紅夜の声を拾ったとたん朔隼はクフッと笑った。やっと気づいた。遅いぐらいだ。ここから私への疑問が広がる。盗聴管を閉じた。
ふふっふふっ
自然と笑みがこぼれ落ちる。
「バカだな、君は。この作戦で殺されるとも知らずに」
次の日紅夜は少しよそよそしかった。しかしそれに気づかないふりをして普通に仕事をつづけた。
「私の家はね。火影家だけど没落した家だったんだよ。だから誰も知らない」
ポツリと話すだけで紅夜の全神経が自分に向くのが分かった。本当に分かりやすい。
「そうなの」
紅夜の声は妙によそよそしかった。まったく演技が下手だ。紅夜に背を向ける。
「……あの……」
予想していなかったタイミングで声をかけられた。
「どうしたんだい?」
自然な笑顔を心掛けながら振り向いた。
紅夜は頬を真っ赤にしている。そしてキュッと背伸びをして自分と顔の位置を合わせてくる。そしてチュッと朔隼の唇に唇を合わせた。
これには驚いた。あり得ない。もし私を疑っていたのならこんなに親密な行為をするはずがない。これは……
朔隼は心の中でにやりと笑った。本当に紅夜は愚かだ。
「うれしいな」
朔隼はほほ笑む。ことさら嬉しそうに。そして獲物がかかったのをみて喜ぶように。そして自分の奥底にある純粋なうれしいという思いは無意識に抹殺した。
そろそろ潮時だ。ここで目の前にいる愚かな女の——自分の失敗を——あの世に送ってやれる。恋人にも今や嫌われ、嘘の告白をされた。薄幸の美女の一生はあと1週間ほどで消えるだろう。
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