見出し画像

秘密主義な仮面


 紅夜は先ほどから何かを熱心に話している。内容はほぼほぼ聞いていない。朔隼は適当に答えながら後ろの気配を探った。冷雅と羅貴が何かしゃべっている。聞き耳を立てながら紅夜の相手をするのは少し難しかった。
「ねぇねぇ冷雅。僕思ったんだけど、朔隼ってさ紅夜の事大好きだよね」
「今気づいたんですか?遅すぎますよ」
 冷雅がやれやれという。


「やっぱり僕さ。ターゲット変えようと思う」羅貴が突然言った。
「はい?早くないですか?」
 さすがに冷雅もあっけにとられたようだ。
「だって朔隼が相手じゃあまずまず無理じゃないの。僕のモットーは手に届きやすい麗しの花を愛でることだからさ」
 羅貴ははっきりと言うときょろきょろとあたりを見回した。パーティー会場は帝都の大ホール。そこに行くために何人もの令嬢たちが周りを歩いていた。


「君、素敵なドレスだね。君の美しい金髪によく似合うよ。よろしければ僕もご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
 声をかけられた令嬢は勝気な感じを漂わせた美女で羅貴の方を振り向いて、品定めするかのように見ていたが
「ええ。喜んで」
 と言い、笑った。羅貴は冷雅にウィンクをしてから歩き去った。


 朔隼は羅貴の様子を滑稽だと思った。自分は全く紅夜のことが好きではないのにそう勘違いして離れていくおバカさん。
紅夜はまだ最近読んだ本の詳しい感想を話している。
 パーティー会場に入った。女性陣は自分を見て失神しそうになっていることに気が付いた。


 顔に仮面をかぶる。よく懐に忍ばせている品だ。優美な黒の片面の仮面だ。目の周りしか隠していないのがさらにミステリアスに見せていることは自分でもわかっていた。
「朔隼。仮面とは粋なことね」
 紅夜は軽くほほ笑んだ。強い眼光がふっと和らぐ。
「今日は仮面パーティーではないのが残念だね」
 朔隼が秘密めいた口調でぐっと体をかがめて紅夜の耳に囁いた。紅夜の耳がポッと赤くなった。巧く相手を魅了していく。


 ダンスが始まった。ゆったりとしたワルツだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?