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帝都のからくり (1)

これはフィクションの小説です。もしよければコメントお願いします。

この小説は明治時代風ですがハッキリと日本と決まっているわけではない、不思議な世界のお話です。

 一人の女が刑務所に護送されていた。ひそかに護送されていてもやはり注目を浴びていた。
まち行く人々はその女を、目を丸くして見ていた。流れるようなさらりとした癖のない、艶めいてく黒髪。しっかりとした目鼻立ち。堂々とした足取り——まるで今から王座に向かうかのような足取りだ。


「あの女、どっかでみた顔だな」
「そりゃそうだよ。新聞でいやというほど写真が出てたじゃないか。あの、紅夜だよ。確か暗殺とかそういう暗黒の技に手を染めた……どうのこうのって新聞で書かれてたじゃないか。案外美人だな」
 男たちはその女の素晴らしいスタイルや視線の強さを見てほれぼれと言った。
 そして悲鳴が上がった。悲鳴というのは年頃の令嬢たちがあげた黄色い声というやつである。
「きゃあ——————‼ 二条院(にじょういん)様だわ。この目で見れるなんて幸せ。あの鋭いまなざしを見てよ!それにあの漆黒の髪」
「あ~私も一度でいいから二条院様に見つめられたい!」
「私は桔梗宮(ききょうみや)様の方がいいわ。あの快活で優しい笑み!いつもほほ笑んでいらして、それに私たちにも話しかけてくださるじゃない。まるで私たちがあの人の知人みたいに優しく、ほんと私はあのような方より優しくと、思いやりが合って、笑みをたやさない人の方がいいわ」
「いや、私はあの硬派な感じが好きなのです」
 この令嬢たちの話題になっている二条院は二条院家の長男で今、その女を逮捕して、列を先導している軍人だ。名前は冷雅(れいが)。とても整った貴公子のような顔立ちだが眼光は鋭く令嬢たちの声すら耳に届いていないかのようだった。


 桔梗宮は今ここにはいない。桔梗宮は天皇家の次男で、兄が東宮になったため軍で仕事をしていた。名前は羅貴(らんき)二条院に対して華やかでどんな人にも気安く話しかけるタイプだ。
 この世の中で好きな男性を聞くと桔梗宮と二条院の名前が必ずあがり、令嬢たちの人気を二等分していた。


 その後、女が刑務所に連れて行かれたのを見ていた全員は今何を見たのかわすれてしまった。その日の朝刊はくばられなかった。


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