見出し画像

別れ

「冷雅?どういうことだ」
 羅貴がまじめな声で言った。
「詳しい話は羅貴と朔隼に話しましょう。この女は外に出しておいてください」
 紅夜は逃げるように去って行った。


「本当にどういうことだい?冷雅。彼女は君が危篤状態だと聞いて、神経を張り詰めていて仕事するどころじゃない状態だったんだよ」
 朔隼が興味深げな顔で冷雅を見つめながら言った。
「それはそうだな。俺が死んだら元も子もないからな」
 冷雅は怒りをぶつけるようにテーブルを叩いた。
「冷雅‼説明しろ」
 羅貴がさらに冷静に言った。


「それは理由がわからないのですが紅夜が俺の記憶を消したのです。あの、薬の中でも特殊な忘却薬です。それを俺に近づいて恋人になってから盛った……そしてまた戻ってきた。自分のことを思いだした後で劇的な出会いに思わせるように」
 羅貴が考え込むように肘を机について手を組んでいたが言った。
「どうして彼女の犯行だと思ったんだ?」
 冷雅はすぐに答えた。

 熱を出している間どんどん思いだしたと。
「つまり、その薬には思いだすのに非常に高い熱を出すという副作用があったみたいだね」
 朔隼が長くて細い指で自分の唇をなぞりながらいった。
「そのようだ。それで最後にあの女の名前を思い出すのに最高に高い温度を要したという事だ」
 冷雅は羅貴に言った。


「あの女を軍から外すべきです。何を企んでいるのか怪しい」
 羅貴はしばらく考えていたが
「それはどうかな。確かになにか事情を抱えているけど、冷雅目当てでいたとは考えにくい。しかも君曰く劇的な出会いってやつだけどそんな危険性のある薬を使うかい?それは今現在存在する中で一番長い時間効果を継続させるものだよ。それなら一か月ぐらいのやつでいいんじゃないの?おかしくない」
「より効果があがると思ったのでは?」
 冷雅が即座に言った。羅貴は眉をあげた。


「そうかな?でも紅夜にも話を聞いてからにしないと軍から外すかは最終的に父上が決定権を持っているからね。冷雅、今日はサーベルの訓練に時間を当てたらどうだい?」
 羅貴はそういうと冷雅に退出するよう合図した。そして朔隼に
「紅夜を連れてきてくれ」
 と命令した。
 朔隼はしなやかに礼をしてから戸の外に消えた。
「わかりました。俺は訓練所に行きます」


 冷雅はそういってから部屋を出るとすぐに朔隼に連れられている紅夜に会った。紅夜はなにかをいいたそうな顔をしていたが何も言わなかった。冷雅はもちろん無視をした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?