羅貴の提案 (3)
「なんでしょうか。桔梗宮(ききょうみや)様」
冷雅含めて全員が礼をした。
「死罪じゃなくてさ、軍に入ってもらうのはどうだろうか?」
冷雅も獄吏もそして紅夜もこの発案に度肝を抜かれたような顔をした。特に紅夜は自分の目を疑うというように羅貴を見ている。
「どういう事ですか?法に従った判決を覆す理由がどこにあるのですか?」
冷雅が素早く聞いた。
「冷雅。見ればわかるだろう。紅夜の腕の筋肉の付き方。集中の仕方。まさに軍にふさわしくないか?最近、すぐれた武芸者がいないだろう」
「しかも軍と言うのは腕がなかったらあとは死ぬだけ結局死刑と同じ結末だ。少し利用してからの方がいいと思うのだけど……僕がこんなことを言うのは実は、何故かわからないんだけど父上からの指示が出ているんだ。あ、天皇陛下のことね」
羅貴はまた、ためいきをついた。
「紅夜を軍に入れるようにって。スパイかもしれないのにって言ったんだけど全くお構いなし、最後には激高して花瓶を割る始末だよ。父上ボケたんじゃないのかな?なんか、父上の理論では男女平等だの、女性の軍人が必要だの。僕も意味不明なんだけど。軍のみんなにも命令をしてたよ。絶対信用できるから口出しするなとか。兄上も父上が言うならと頷くし」
「まぁ僕個人としては死刑はしたくないな。だいたい殺したのは星の数とかいうけどその殺した人は全然政治的に偏ってないから紅夜はただの暗殺者だろうね。さっきも言った通り、利用してもいいんじゃないのかな。紅夜がもし不審なことをしていたら即死刑でいいからさ」
羅貴は自分でもわからないというようにため息をついて、長々と説明してから獄吏たちに合図して紅夜の縄と解かせた。
「動くな」冷雅は急いで紅夜に言った。
紅夜は全く動かなかった。すぐに飛び出すと思ったのだ。しかし、紅夜はゆっくりと椅子から立ち上がっただけだった。
紅夜は羅貴が手招きしているほうに歩いて行った。そして跪き、
「ご恩情に感謝いたします。軍のものとしてこれより精進させていただく所存ございます」
華族がするような上品な女の礼だったので冷雅は正直驚いていた。この女の身元について調べた方がよいのかもしれない。取り調べの時点でも全く明らかになっていない。ただの市民出身かと思っていたが違うようだ。
「ついて来い」
冷雅は冷たく言った。
紅夜は素早い猫を思わせるような足取りで歩いてきた。
訓練所に羅貴が向かっていると冷雅は気が付いた。
「そんなに固い口調じゃなくてもいいじゃないか。軍服はまた後日送るよ。それじゃあ試しに冷雅と手合わせしてもらってもいいかな?」
羅貴は紅夜をしげしげと見ながら言った。訓練所の戸が開く。
「了解いたしました」
紅夜は軽く一礼した。
「剣を貸してやれ」
冷雅は配下にサーベルを持って来るよう合図した。
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