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love letter from K. Season4「ヒト」6. 夏は夜の光 ―後編―

「夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。」清少納言の有名な句。現代よりも遙かに暗かった平安時代。少し涼しくなった夜と共に、月の明かり蛍の光に趣を寄せる。さぞや幻想的だったことでしょう。明かりがない暗い夜ゆえに強調される光達は、平安の人々にとって美しく、今でいう“癒し”や“和み”にも思えたかもしれません。


好きな灯り

前編では「下からの光が持つ非日常感」の話をしましたね。機能的な天井照明も素敵ですが、フロアライトなど下から照らす照明が好きで、これまで色々な物を使ってきました。そんな僕のお気に入り達を少し紹介します。

Block Lamp / Design House Stockholm (1996)
design: Harri Koskinen

ハッリ・コスキネンデザインのブロックランプ。名作ですね。まるで氷の塊に電球を閉じこめたかのような美しいデザイン。理屈抜きで「綺麗」と言わせてしまう幻想的な照明です。1996年にデザインされ、20年以上経った今もその新鮮さは変わりません。数年前に生産国が変更されてしまい、面が少し平滑になり、箱っぽいプロポーションになってしまいました。一方これはオリジナルのモデルで、ひとつひとつ職人の手によってガラスを溶かし鋳造されて作られているので、表面が微妙に波を打っています。この不完全な揺らぎが、ガラスのキューブではなく溶けた氷のような自然美を紡いでいるのでしょう。

Milk Bottle Lamp / droog design (1991)
design: Tejo Remy

droog designのミルクボトルランプ。オランダ産、光る牛乳瓶です。ドローグデザインは、当時の物質主義/大量消費社会に対するアンチテーゼやウィットを封じ込めたコレクションを発表。このボトルランプも実際に使われていた牛乳の空き瓶をランプシェードに転用をし、当時のエコトレンドのヒットアイテムになりました。これも20年近く使ってきているのに(実は割ってしまって2代目)色褪せない照明。天吊りなのにフロアランプというのは他にないデザインで、それでいて瓶の置いてある高さや形に普遍性を覚えます。どう見ても瓶ですが、少し浮いて光っている。見慣れた形が見慣れない姿に仕上がっている。このコントラストが非日常感を生み、この照明だけで部屋の雰囲気はガラリと変わります。


メリディアンランプ

真北と真南を結ぶ“子午線”という意味を持つこの照明。最初見た時「どことなく天文的な形だなぁ。」と感じていたのですが、調べて納得。地球に縦にすーっと線を引いたようなアーチがメインモチーフになっていますね。いわゆる機械的な形ではなく、まるで地球儀のような、モニュメントライクな美しい立ち姿です。

使ってみるとその印象とは裏腹に、非常に堅牢な上にフットワークが良いです。重量自体が軽いわけではなく、ちょうどよい安定感のある重さ。重心が下の方にあるおかげでしょう。ここを持ちましょうというような仰々しいハンドルはなく、自然とアーチ部分を触れるような設計になっている。機能と形がミニマルな形でピシッと合うようにデザインされているのはお見事です。まさにForm follows Function(形態は機能に従う)。


ケーブルを抜いて

持ち運び可能な照明を購入しても、結局決まった位置にずっと置いてある。そんな方もいらっしゃるのではないでしょうか。この照明はそんな使い方より、家中のあらゆる所に持ち運んで楽んでほしいです。僕は某社のLEDランタンからメリディアンランプに変更をしましたが、こちらの方が、より持ち運んでいるような気がします。あまりインテリア的に決め込まずに、自然な生活感のある風景に溶け込ませた方がこフォルムが際立ちます。人の導線の多いキッチンカウンターなどに敢えて置いたりするのもおすすめ。

取り回しが良いからかもしれませんが、使っていて実感したのが「意外と小さい」ということ。一般的にランプシェードが下を向いている照明は、向きを動かせたりする物が多いので高さがそこそこあります。メリディアンランプは角度が固定のため一見機能的に劣りそうですが、使っていてもそんな事は全く感じませんでした。むしろ可動部分がないので全体としてコンパクトなサイズに収まっています。これは使ってみるまで気づかなかった所でした。壁際に寄せれば間接照明的に、 ダイニングテーブルに置けばロウソクのようにムードを作れます。もちろん読書のお供としても。


あなたの光を

ここまで2回に渡り「光」について語ってきました。いやぁ、光と人間の関係は奥が深い。照明もそのひとつです。自分の好きな灯り達を見ていると、単に照らせれば・明るければ良いという訳ではなく、癒されるとかほっとするとか、理屈抜きで「気持ちいいなぁ」と心情が揺さぶられる物に重きを置いているように感じます。非常に感覚的ですが、目で体で感じたものを深く考えず、敢えてそのままにしておくのもいいじゃないかと。人間というよりは、動物として体が喜ぶ灯りに巡り会えるまで照明を探すのはとっても楽しいですから。「これだ。」という物に出会った時、それはあなたにとっての太陽となり月になるかもしれません。

つづく


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和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。


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