「アフリカの夜」⑦八重子とみづほの古疵

「アフリカの夜」は心に沁み、23年経っても私を励まし続けるドラマだ。一つのシーンだけ見ても、力がもらえる。

今回は、第4話のみづほと八重子が居酒屋で飲むシーン。

八重子は挙式中、エリート銀行員の夫が横領で逮捕されたという古疵。みづほは、暴力夫を殺して死体遺棄したという古疵。どちらもヘビーだ。だけど、このドラマは明るく面白い。

○居酒屋・店内(夜)
カウンター席で隣り合う飲むみずほと八重子。
八重子「私、ホントにこの町で、静かに穏やかに暮らしたいと思って来たんですけど……」
みづほ「静かに、穏やかに暮らしてる人なんて、この世の中にいるのかな?」
八重子「ヘッ……?」
みづほ「外見は穏やかでもね、心の中はみんな修羅場じゃないの?」
八重子「そうでしょうか……?」
みづほ「だって、生きることは戦いだもん」

大石静「アフリカの夜」第4話より

八重子は、みづほが殺人をしてしまったことを知らない。でも、観ている私達は知っている。主人公と視聴者の認知の差でドキドキする。「赤ずきんちゃん」を読む子どもみたいに。

そのあと、八重子の夫の話が続いて

八重子「彼、結婚式挙げた後、教会の前で逮捕されちゃって……」
みづほ「(動揺)……逮捕!?」

○あの日、あの時~みづほの回想
雨の夜、死体に土をかぶせているみづほ。

○元の居酒屋(夜)
八重子「銀行で無理な貸し出しをして、彼自身、利益を得ていたということで……」
みづほ「……」
八重子「でも、私がバカだったんです。幸せも、カタログから選ぶような女でしたから……」
みづほ「ひかり銀行かぁ……絵に描いたようなエリートだったんだぁ……」
八重子「全部、私の選択の間違えなんです」

「アフリカの夜」第4話より

居酒屋のシーンで、みづほの殺人遺棄シーンと八重子の夫の逮捕シーンの回想が、効果的に入ってくる。
この後、八重子の教会で夫が逮捕された回想があり……

○元の居酒屋
八重子「週刊誌とかに、置き去り花嫁とか描かれたことは、多分、一生……」
みづほ「(遮り)どんな失敗からでも、人は出直せると思うけどね……」
八重子「なんでこんなことしゃべっちゃったんだろ?」
みづほ「しゃべりたかったんじゃないの……?心の底で、誰かに聞いて欲しかったのよ、きっと……」
八重子「……」
みづほ「ダメだねぇ、そんな逃げ腰じゃあ……」
八重子「あたし、逃げてますか?」
みづほ「逃げてるわよ」
八重子「逃げてますよね……?」
みづほ「アタシもねぇ、昔あんたみたいに臆病だったから分かるんだわ」

「アフリカの夜」第4話

「アフリカの夜」でグッとくるシーンには、必ず「道は開かれてる」という主題に通じるセリフがある。「どんな失敗からでも、人は出直せると思うけどね……」これを、殺人犯のみづほが言うのがずっしりとくる。

ハッとするのは、「ダメだねぇ、そんな逃げ腰じゃあ」というセリフ。みづほが八重子と向き合ってるから言える言葉だ。「これまで頑張ってきた」というのは早すぎて嘘っぽいし、「大丈夫」だと安直になる。ここで、こういうセリフが出るのがスゴイ。ちなみに、何に対して逃げ腰かは、「私、ホントにこの町で、静かに穏やかに暮らしたいと思って来たんです」というセリフに現れる八重子の覚悟のなさなのかな。

みづほ「自分の人生の責任は、自分にしかとれないのよ。だから、人は幸せになるために戦うことを、恥じることないの。理にかなわないと思うことがあればサ、はっきりヤダって言えばいいし、違うって思えば、違ってるって声に出せばいいのよ。泣き寝入りだけは絶対にダメ」
八重子「前に、私と同じようなことがあったんですか?」
みづほ「同じようなこと、じゃないけどね」
八重子「そうですか」
みづほ「強くなんなさいよ、杉立八重子!穏やかに、静かに暮らすのもええんやけどぉ、人生から逃げたらアカンのやさ。立ち向かわんと!」
八重子「(うなずき)……」

大石静「アフリカの夜」第4話より

「人生から逃げたらアカンのやさ」……重い、みづほが言うから重い。八重子は、みづほと出会ったことで、第7話で史郎と対峙できる強さを持つことができた。

Wikipediaによると、放送前の仮題は「トランジット」だったようだ。トランジットとは、飛行機などが目的地ではないが、燃料などを補給するためにいったん着陸することらしい。八重子はメゾンアフリカで出会ったみづほ達から、人生に立ち向かうために栄養を保給される話ということだろう。メゾンアフリカが目的地ではない、というのも切ない。

みづほ「ひとりじゃ生きらんないと思ってたから、男の身勝手に振り回されても黙って耐えてた……いいことはいい、ヤなことはヤ……はっきり物も言わないで、中途半端に物分かりよくしてるとさぁ、後で、どえらい矛盾が押し寄せてくるわよ。そんなことになってからじゃ、遅いでしょ?」

大石静「アフリカの夜」第4話より

おまけで、「どえらい矛盾が押し寄せてくるわよ」言い回しが好き。どえらいと方言を使っている。すごい矛盾というより、えぐみが出る。どえらいの「ど」が濁音なのも、内容と言葉の響きが合っている。

感想
「アフリカの夜」は人間賛歌ドラマ

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