見出し画像

発見!!わたしが見つけた文化財。小金井神社本殿が小金井市の文化財に指定される。

2009年に開講した「京都市文化財マネージャー育成講座(建造物)」は、京都市、(公財)京都市景観・まちづくりセンター、(社)京都府建築士会、古材文化の会の4者が実行委員会を組織して開催しています。講義と演習、そして修了課題で実践的に学ぶ講座です。受講資格、居住地は問いません。『身近になった文化財を身近な人々が扱う時代が到来した』。パンフレットの言葉の通り、“わたしたちの文化財”が各地で生まれています。今回は、第11期京都市文化財マネージャー育成講座を2018年に修了された、稲辺栄子さんからの寄稿を紹介します。 

演習33

▲第11期京都市文化財マネージャー育成講座(建造物)演習の様子


 昨年2020年12月、小金井神社本殿が小金井市の指定文化財となりました。これもひとえに「古材文化の会」のお蔭です。私自身は建築士の資格を持たない、いわば素人ですが、ご参考までに文化財指定までの経緯について記させていただきます。

 東京都小金井市は新宿駅から西へ電車で約30分、江戸時代からの桜の名所、あるいは「江戸東京たてもの園」のあるところといった方が早いかもしれません。菅原道真公をご祭神とする小金井神社の創建は元久2年(1205年)、武蔵野新田開発以前からの村の総鎮守として現在に至ります。元々私の実家が代々氏子だったことから、数年前より主人が氏子世話人を引受け、宮司さんとも親しくさせていただいていました。

いな2

▲「小金井神社本殿」全景(1993年覆屋改修工事時)

<一間社入母屋造 向拝一間軒唐破風付 杮葺>建築的特徴として、銅板の目を張り付けた向拝の獅子鼻・獏鼻・琵琶板の龍彫刻、向拝・水引虹梁の絵様彫刻(渦と若葉)などがあげられる。木割寸法は、18世紀に普及した木割書「大匠雛形」の影響を受けている。保存状態も良好で、数度の改修を加えながらも建立当初の建築を良く留めている(※)


 2018年に文マネ講座をやっとの思い(!)で修了した年の暮れ、小金井神社の拝殿建替えの話が具体化していく過程で、偶然、宮司さんから覆屋の中の本殿(非公開)が宝暦元年(1751年)の建物だと伺いました。宝暦といえば270年前、しかも幾度かの大地震をくぐり抜けています。あいにく神社の略縁起に記録があるものの、棟札がなく、文化財の指定も受けていないとも。一応、小金井市の文化財係を尋ねましたが、特に市では神社の調査はしないとのことでした。

いな1

▲銅板の目を張り付けた向拝の獅子鼻と獏鼻

 このままでは貴重な建物の存在がうやむやになってしまうという危機感から、古材文化の会の白石事務局長に連絡、菅澤茂先生に本殿の写真をみていただきました。そこで「宝暦の建物に間違いない」とお墨付きをいただいたことが文化財を目指す第一歩になりました!「登録有形文化財」という選択肢も視野に入れて、白石事務局長から文マネの先輩である横浜の有井祥裕さんをご紹介いただきました。有井さんには「東京都 近世社寺建築緊急調査報告書」(早稲田大学 渡辺保忠教授監修 1989年)に小金井市内で唯一小金井神社本殿が掲載されているという貴重な情報をいただきました。

画像3

▲今回の調査での新発見。大正期に描かれた軸装の「境内絵図」

 2019年春頃、本殿の写真とこの資料をあらためて市に提示して、文化財保護審議会委員である東京理科大の伊藤裕久先生に本殿を見ていただいたところ、建築年代について宝暦で一致し「指定文化財にふさわしい」として一気に話が進みました。拝殿の埋蔵文化財調査が終わるのを待って、本殿の調査日程が決まったものの、伊藤先生の体調不良で調査が一旦延期に。年明けにはコロナ禍もあり、実際に調査ができたのは昨年2020年夏のことでした。調査を待つ間、私も神社の関連資料をまとめて資料集の形にして、文化財調査の参考にしていただきました。その後、文化財保護審議会、教育委員会と審議を経て、ようやく12月に文化財指定にこぎつけました。
 1993年に行われた覆屋改築の際、本殿も併せて新築するという話もあったそうですが、当時の氏子達の希望で古い建物のまま残したそうです。私自身、神社の歴史を調べる過程で、結果的に地元の歴史にも触れることができました。これからも地域の「お宝」を守って、次世代に引継いでいきたいと思っています。

(※)小金井市公式WEB「市報こがねいPDF版(令和3年3月1日号)」の6面に小金井神社本殿が紹介されています。(下記クリックしたら開きます)
市報こがねいPDF版

──『古材文化』Vol.155(2021.3.1発行)より 一部加筆あり