医療事務が脳梗塞で入院した話・その11

脳梗塞って、一般的なイメージだと梗塞した側とは反対側の上下肢が麻痺して動かせない、みたいな感じだと思います。

しかし、延髄が梗塞した場合、そういう運動機能は障害されないようです。

ググッてみると、わたしのように延髄の外側が梗塞すると、嚥下障害、嗄声(させい:声帯病変によるかすれ声)、温痛覚の異常、めまい…なんかが出る模様。

取りあえず自分にあった症状だけ書いてみましたけど、他に書いてある症状の、例えば嘔吐、悪心とかがあったら、家にいるのはつらいです。つか、無理。

だがしかし、頭と頸(くび)が痛いとか、水をさわったらお湯に感じるとか、手を下げていたら痛くなるだとか、水道の水が痛いとか、左手がビリビリしたりはしていても、特に日常生活に支障があるわけじゃ無いし、頭が痛いときは薬飲めばいいんだし、基本ふらふらしますけど普通に買い物にも行けますし、階段の上り下りがあやしくても今時どこの階段にも手すりがついてるし、なんならエレベータ使えばいいんだし、車の振動が頭に響くので遠出するのはしんどいですけど行きたいところがあれば遠出しますし、疲れやすいけどその辺で休憩すればいいんだし、要するに見た目は普通の人なのです。

ホント、なんで入院してるの?って感じです。

見た目はね。

だけど、この時点の状態で家に帰ると、飲み食いが出来ないのですね。

とろみ剤を持って帰れば水分を取ることは出来るでしょうが、家でペースト食を作るのはしんどいです。

ダンナちゃんは一緒にお粥食べたくないと思います。

つか、わたしもお粥そんなに好きじゃないんです。雑炊は好きだけど。

なので、常食を食べられるようにして家に帰る、というのが目標になりました。

そこで活躍するのが、言語療法士(以降、ST1さん)なんですが。

もうね「口を大きく開けましょう」てところから始まります。

そして、口を大きく開けるのはものすごくしんどいです。大きく開けて10秒維持するのがしんどいです。

わたし、長年…それこそ医療事務よりは歴が長いんですが、合唱団に所属してまして、口を大きく開けるとか発声練習でやったりするんですが、いったい、いつの間にこんなに口を開けるのがしんどくなったんでしょうかね。

いったい脳のどこが阻害されると、口を開けるだけのことが、こうもしんどくなるんでしょう。←だから延髄だってば

「舌を思いっきり出しましょう」

舌を思いっきり出すのは、これまたものすごくしんどいです。舌を思いっきり出した状態を10秒維持します。

舌が筋肉痛になります。

筋肉痛! 痛だるいんですよ、舌動かすと。

つまり、これ、

筋トレ!

舌の筋トレ!

舌に筋トレがあるとは思ってなかったけど、舌の筋トレ!

さらに、顎を持ち上げて10秒を5回とか10回とか、それを一日3セットとか、マジでスクワットを一日3セットとかと一緒です。

口の中で頬を舌で押すのを左右やるとか、顎を前に出すのを10回3セットとか、真面目にやると、2単位40分なんぞあっという間に終わります。

ていうか、舌を出したまま、ごっくんって飲み込むのって出来ますか!?

わたしこれがすっごく苦手でした。

このだいぶ後に頸の筋トレも追加になるんですが、最初は頸はやばいから(頸の血管が解離しているわけだから)やめておこうということになって、SCUから動かずに出来ることとなると、もうひたすら舌の筋トレになるのです。あとは頸でも顎に近い方の筋肉は最初から筋トレ対象です。

で、ここの病院は土曜日は午前半日やって午後から休み、日祝は休みなのですが、SCU入院中の人と回復期リハビリ病棟の人は休みの日も毎日リハビリがあるのだそうです。

さすがリハビリ病棟のある病院は違うわ。

うちの病院土日休みだから、リハビリ土日休みなもんだと思ってたよ。

実際、土日にもリハビリさんが来ます。午前中にささっと、時間はちょっと短めにだけど、来ます。

で、土日祝にリハビリやるから、平日にシフトでお休みだから代わりの人が来るという感じです。

そして、舌や顎の筋トレは、リハビリでやる他に一日数回は自主練習してねと言われました。

わたしも早く普通のごはんが食べたいので頑張り……たいと思います。

で、リハビリ以外は特にすることがないので、全てのリハビリが終わると夕食までが暇すぎるので、自主練するかーって感じで自主練メニュー見ながらがばーっと口を開けたり舌を出したりしているとナースが

「うちのリハビリ、スパルタだよねー」

とか言いますが、別にそんな感じはしません。家に帰れるならスパルタ我慢しますし、言うほどスパルタでもないと思います、今のところは。

いやホント、SCU生活は、検査とリハビリ以外は、特にすることがありません。

ずーっとつながっている点滴の交換がたまにあります。

MRI撮りますよーと呼ばれれば、車椅子がやってきてそれに乗って運ばれていき、帰りもお迎えが来てくれます。

あーうちの病院の看護助手さんたちも、しょっちゅう「お迎え行ってくるー!」とか言って走ってたなあ、こんな感じだったんだなあとか思います。

そう言えば、初日に安静にしてと言われたような気もしますが、安静にしてなきゃいけないのにリハビリで体操するとか、その辺矛盾があるんじゃないかと思いますが、多分、

頭を動かすな。

という意味だったのかなと思います。頭というか、多分頸を。

初日に点滴をつながれて書類を書いてしまったら、あとは夕食まですることがなくて、もらったおしぼりで腕時計の拭き掃除を始めてしまったくらいヒマです。腕時計、意外と埃や手垢がたまるのでたまに洗剤溶かした液にドボンとつけて掃除します。

ていうか、その腕時計、普段左腕にしているんだけど、左腕にはリストバンドが巻かれている上に左腕の感覚がおかしいので腕時計がしんどくてはずしてしまいました。

あまりにも暇そうなので、ナースが「何か読む物持ってきますねー」とか言って持ってきてくれちゃいます。

読む物なら、家に山ほど積ん読があるのにーと思います。読みたい本は取りあえず売り切れる前にと思って買っておくんですが、日々忙しくて殆ど読めず、リビングの自分の場所の周りに積んでありました。

SCUは面会時間が昼と夕方の1時間ずつと厳格に決まっているので、ご家族のみなさんはその時間を狙ってきます。

ダンナちゃんもほぼ毎日夕方に現れました。ダンナちゃんの職場と病院が割と近いからなせる技です。

もしダンナちゃんが同じように入院したとしても、自分が仕事していて忙しかったら毎日通うだろうか、と考えます。毎日通うとしても、面会時間が終わってから病院に戻って仕事してる気がしてならないです。

ダンナちゃんは1日出張日があった以外は毎日来てくれました。

とてもありがたかったし、とても助かったけど、正直びっくりしてました。

自分が病院で仕事してても、毎日家族が来る人なんてそんなにいませんでした。次にご家族さんが来るのいつですかって訊くと、週末には来るかなあとかいう返事が普通でした。そりゃご家族さんも仕事してればそんなもんでしょう。退院の日に迎えに来るだけとかも普通でしたけど。

SCUにいて重症扱いされている間は毎日でも、その後一般病棟だったりリハビリ病棟だったりする時は毎日来たりしないでしょう。

あとでダンナちゃんになんで毎日来たのか訊いてみましたが、どうも毎日来るものだと思っていたみたいです。その根拠はいったいなんなのか、今もよくわかりません。

ダンナちゃんが毎日来るのをいいことに、用事を頼みまくってました。用事と言っても、お箸のセット買ってきてとか家に積んである本を全部あのカバンに入れて持ってきてとか、なんですが、壊滅的にセンスがよろしくないダンナちゃんにはとてもハードルが高かったと思います。

ダンナちゃんが頑張って探したお箸セットとシャンプーとボディソープと積ん読が届きました。

お箸とスプーンとフォークセットを、同じセットを頑張って探してきたのが感動的でした。普段自分で箸を持っていくときは必ず1本ずつ違う箸を持っていくダンナちゃんが、箸は同じ物を揃えたいわたしに合わせて同じ模様のセットを買ってくることが出来たのがすごいです。

シャンプーがリンスインシャンプーなのも感動しました。入院中にシャンプーとトリートメント使うのは多分しんどいと思ってましたから。これは多分いつも彼用にはリンスインシャンプーを買っていたのが浸透してると思います。

ボディーソープがでかすぎるのでそう言いましたら「それしかなかった」と言われたのですが、確かに退院してから探しても大きい物しかありません。ダンナちゃんは正しかったです。

そうして買ってきてくれた物を並べていたら、ナースがやってきました。

手にビニールテープを小さく切った物をいっぱい持っています。

ビニールテープを小さく切ったものに油性マジックで名前を書き、持ち物全てに貼っていくのです。

物には全て名前を書いてください、を粛々と実行するのでした。


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