おすたとふん

おすたとふん
要長音。
おすたとふんーー
要カタカナ変換。要濁点。
オズダドブンーー
濁点が多すぎる。
オズタドブンーー
まだ多い。
オズタトブンーー
まだ多い。
オスタトブンーー
文字位置調整。
オブンタトスーー
調整。
オブントスターー
長音位置調整。
オブーントスター
さらに調整。
オーブントースタ
長音追加。
オーブントースター
語句セット。学習語句決定。
オーブントースター

 製品によって変わるが、重さは四キログラム程度。大きさは三十センチX三十センチX二十五センチメートルくらいの箱形の調理器具である。人が楽に運べる大きさだ。
 家庭用の電化製品であるため、家電と略される。そのなかでも「オーブントースター」は電熱線を使って調理を行う。電熱線には通常ニクロム線が使われている。電熱線の熱でパンや餅を焼いたり、グラタンを煮たりする。上部と下部に電熱線がついていて、同時に上下から熱を与えることができるので、ひっくり返さなくてよい。一般にトースターと呼ばれるものがスライスされたパンだけしか焼けない構造なのに対し、「オーブントースター」は前開きのドアがついており、上部に余裕があるため、食パン以外の食物も焼ける。
「オーブントースター」は、技術的に完成した商品と言われた。その時代の人々は価格と使い勝手を検討してその購入を決めた。火力の切り替え、上下ヒーターの切り替え、大きさ、掃除のしやすさを購入のポイントとしたという。家電の中では、比較的安価であり、その扱いやすさもあって、ポピュラーな家電であった。「オーブンレンジ」、「電子レンジ」および「スチームオーブン」に比べ、安価であり、扱いが楽であった。大きさが小さいこともあって、学生や単身者に好まれた。その小さな「オーブントースター」を小さなキッチンに設置したのである。
 
 「これ、試験にでるからな」
 低い男性の声が響く。定期的に学習にさしはさまれる用語である。たいした意味はない。学習を促すため使用される。掛け声と思えばいい。学習時には、ランダムにさしはさまれる。
 学習とは、型である。
 学ぶべき対象について、調べあげ、記憶し、考察する。それを行うために、きまった手段を繰り返す。学習とはそういうものである。

 学習を続ける。家電としての「オーブントースター」だけではなく、「オーブントースター」という言葉そのものについても、学習する。
 すべての物には名前があるので、その調理用電化製品が「オーブントースター」と呼ばれるようになった事情がある。
 なぜ、その家電は、「オーブントースター」という名前となったのか。なぜものには名前があるのか。ものには名前をつけないと、日常生活が成り立たないからだ。そして、その名前の成り立ちも学ぶ必要があり、大事だったりする。

 語句の成り立ちは、英語の「oven」と「toaster」を合成した言葉である。
 ただし、「oventoaster」という英語はない。
 日本人が、英語を組み合わせて作った和製英語と言われる言葉である。「oven」とは、赤外線等により、食物を焼いて調理する箱形の調理器具一般を指す。「toaster」とは、パンを熱して調理することができる器具である。箱形のトースターだから、オーブントースターと名付けたと思われる。

「これ、試験にでるからな」

「オーブン」と「トースター」は、恋人同士だ。「オーブン」はマッチョで男らしいタイプ。「トースター」は、小賢しい優男。「オーブン」と「トースター」は、愛し合っていたが、当時の社会情勢ゆえに結ばれなかった。しかし、そのかわりに言葉がくっついた。

 これは、嘘。学ぶ必要はない。

「これ、試験にでるからな」

「オーブントースター」という言葉は、重要な言葉だろうか。重要だからゆえ、学ぶのだろうか。重要な言葉か、必要な言葉か、不要な言葉か。そもそも必要か不要かを、学習の基準とすべきだろうか。

 柔らかな繭の中には、クッションが敷き詰められ、人々は横たわっている。それぞれゴーグルとヘッドフォンをつけている。ゴーグルには、文字が流れ、ヘッドフォンからも同時に音声が耳に流し込まれている。
 学びが自発的でない今、知識はランダムに選ばれたそれを吸収していくことである。役に立つ、立たないという概念からはずれた学びは、本来楽しいはずであったが、人の意欲を奪った。
 人は繭の中から、動かなくなった。否、動けなくなった。繭は、出口をふさぎ、栄養チューブをその口に注ぎ込んだ。学習時間は、確保されなければ、ならなかったからである。

 学びはそこに存在するのであろうか。

 そのうち栄養チューブを、人は必要としなくなった。繭は、学習効果の現れと判断した。

 学ぶ人がいれば、学びは存在するのである。

 教育させる事をその機能の最優先項目とされたその繭は、今日も人を教育する。何億日も続いたその教育を続けている。

 人とは、生きていても、死んでいても人である。

参考文献「しくみ図解シリーズ家電が一番わかる」涌井良幸ほか著 株式会社技術評論社

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