出るはずのない電話【小説】
穏やかな午後。近所のカフェ。
窓際の席に座る男性が目に付いた。脚を組んでコーヒーを口に運ぶ気取った仕草が夫に似ている。顔立ちもどこか夫を思い起こさせた。ほら、あの無駄にキリッとした眉なんてそっくりじゃないか。
その存在だけで、午後のティータイムを台無しにするには十分だった。嫌な思い出ばかりがふつふつと頭に浮かんでくる。
じろじろと見過ぎたようだった。わたしの視線に気づいて、男が顔を上げる。わたしはすぐに目を逸らした。不審に思われただろうか。わたしは両手で包むようにカップ