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さらさらと水の音が聞こえた。引き寄せられるように山道を進む。ブナの木が並ぶ小道を抜けると、沢に出た。ゴツゴツした岩のあいだを澄んだ水が流れている。上流には小さな滝が見えた。 適当な岩に腰をおろし、釣り糸を垂らした。透き通った水のなかをイワナが生き生きと泳いでいる。 「いいなあ」 あんなふうに自由になれたら、どんなにいいだろう。 深いため息が出た。練り餌をまとった釣り針が、ぼくの日常のように水中で空虚に漂っている。 そのとき、一陣の風が吹き抜けた。 カランコロン。沢