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超短編小説集

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短くて、意外な結末。全力投球の厳選ショートショート集。
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2021年1月の記事一覧

出るはずのない電話【小説】

穏やかな午後。近所のカフェ。 窓際の席に座る男性が目に付いた。脚を組んでコーヒーを口に運ぶ気取った仕草が夫に似ている。顔立ちもどこか夫を思い起こさせた。ほら、あの無駄にキリッとした眉なんてそっくりじゃないか。 その存在だけで、午後のティータイムを台無しにするには十分だった。嫌な思い出ばかりがふつふつと頭に浮かんでくる。 じろじろと見過ぎたようだった。わたしの視線に気づいて、男が顔を上げる。わたしはすぐに目を逸らした。不審に思われただろうか。わたしは両手で包むようにカップ