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体験設計のための”ユーザー要求”設計

これまで体験設計(Experience Design)についていろいろと書いてきましたが、基本的なスタンスとして「体験は複数の要素(人間、環境、複数製品/サービス)の組み合わせ(システム)によって作られるもので、それを設計する体験設計は各要素の相互関係や役割について規定するものである」としてきました。

実はこれと同じような定義がされているものとしてISOの品質プロセスに求められている「ユーザー要求(User Requirements)」があります。全ての製品設計はその根拠となる情報に基づいて行われる必要があり、それをドキュメント管理していくのが品質プロセスになります。

人間中心設計プロセス(ISO9241-210)においては、最初のステップとして「利用状況の把握・明示」「ユーザーと組織の要求の明示」が置かれていますが、これは設計対象では無くあくまでも設計に向けた前提条件のとして事実を書くことになっています。

それに対して体験設計では、ユーザー要求を本質的要求(欲求)までさかのぼりそこから新しい利用状況や要求を含めて設計(設定)しようとしています。


製品/サービス開発の上流として

ユーザー要求にせよ体験設計にせよ、製品/サービスの開発から見ると上位目標を示したものとなり、V字開発プロセスでは最終的なバリデーションでは個々の機能や操作ではなく製品全体が提供する体験価値として検証されることになります。

では開発の上流とはどういったことでしょうか。「目的と手段」で言えばユーザー要求が目的で製品設計が手段です。通常目的を達成できれば手段は問わないという考え方が重要になります。

ユーザー要求はワガママなものになります。物理法則に反する要求、相反する要求など夢と希望で構いません。それらはSFプロトタイピングとして実際に活用されています。問題は現実性ではなく本質的な要求であるかどうかです。

開発でおこなう設計には多くの制約があります。できないことが沢山ありますが、本質的な要求を現実的な仕様に分解し新技術で克服していくのが開発の醍醐味です。

身近な例では「折り畳み〇〇」という商品は持ち歩く時は小さくて使うときは大きい方が良いというユーザー要求を開発で解決したものになります。「自動〇〇」も同じように人間が手間を掛けたくないものを代わりにやってくれるものですし、「いつでも〇〇」は逆に人間がやりたいことを状況に関係なくやれるようにしたものです。

こういう製品/サービスを開発する原動力がユーザー要求や体験設計から出されることで開発は進化していけるはずです。


ユーザー要求の書き方

ユーザー要求は一般的に「〇〇できること」という風に書いていきます。ただこれだけだと利用状況はユーザーの要求がどうなっているのか不明確です。

「〇〇cmの場所で、〇〇のために、〇〇できること」

このようにユーザー要求を書くことで、具体的な利用状況とユーザーの上位目的が明確になります。

また関連する利用状況を数字で表すだけでなく、ストーリーとして要素間の関連性を詳細に記述するシナリオライティング方法もあります。人が活動をするためにはコンテキストが生み出す内的な動機が必要です。体験設計はそれを受け身として扱うのではなく、積極的に設計対象にしていく活動です。

ユーザー要求をしっかりと考えて書いていくことが大切なデザイン領域になっていくはずです。


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