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エンジニアリングとデザイニングの違いと役割

2024年 新年あけましておめでとうございます。
今年も、どうでもよい話の中に何か大事なものを発見できるような記事を書いていきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

まずはいきなり愚痴っぽいことから書き出します。

欧米ではエンジニアがおこなう「設計」のことをDeignと言うらしく、グローバル企業では〇〇デザイン部門が沢山できて、デザイナーたちは困惑しています。

一方でデザイナーはエンジニアとは別の職業として存在しており、行為としてのDesign(設計)と職種としてのDesignerは別の概念のようです。

さらにDesign Thinkingのデザインは、デザイナーのように思考する意味らしいのでややこしいです。そもそも設計がデザイン思考でおこなわれているのであれば、わざわざDesign Thinkingを意識する必要は無いはずです。


デザイニング=感性

DesignerやDesign Thinkingのデザインには、理論が無いものごとに対して「感性」によって答えを出す意味が含まれています。それは独りよがりのものではなくユーザーや社会を理解した上での共感です。

アジャイルに仮の答えを出してプロトタイピングを繰り返すことで正しい答えに近づけていくためには、直観によるデザイナーの能力が必要です。例え全く状況が分かっていなかったとしてでも想像力を働かせて動き出すことがデザインです。デザイナーは小さなスケッチを描きだすことができるのです。そしてそのスケッチにはほとんどコストがかかりません。

Design Thinkingがさまざまな分野で注目されているのは、一生懸命にエンジニアリングを頑張っても変化の激しい不確実な時代には追い付けないことの表れなのでしょう。


エンジニアリング=工学

現在の製品開発にはメカニカルな設計だけでなく、プログラミングなどさまざまな能力を集め構成しなければなりません。システム・エンジニアが企業の中で強い立場を得る背景です。

「工学」は理論が成り立つことを産業に活かすという意味があり、どんなものともくっ付く不思議な力があります。

本当かどうか分かりませんが「ユーザビリティ・エンジニアリング」というものがあるらしく、ユーザビリティ・デザインとの違いとしては、ユーザビリティを曖昧なものとして感性で扱うのではなく、ユーザーのワークフローを完全に観察・分析して行為や認知を工学的に扱うことになります。

医療機器や自動車のようにユーザビリティが安全に直接関係する分野では、デザイニングではなくエンジニアリングで扱う必要がある訳です。

では、エンジニアリングが全ての活動を掌握して進んでいくのでしょうか。


デザイニングの限界とエンジニアリングの限界

人間中心設計の考えでは、人間(ユーザー)の要求が先にあり、それを解決する手段としてテクノロジーがあるべきですが、実際にはテクノロジーが生み出した使いにくさをデザイナーがフォローするような関係が今も続いており、エンジニアリングの領域が今も増え続けてます。

ではエンジニアリングは全てのものごとを論理的に扱い、教育や宗教、道徳や心の領域までエンジニアが一番理解しているものとして扱うことになっていくのでしょうか。またそれが可能なのでしょうか?

エクスペリエンス・デザインでは、単に製品と人間の関係を考えるのではなく、それらを使ってどのような生活を送り、人生を作り、文化を深め、人類の持続可能性に繋げるものです。深く考えるべきものですが、必ずしも理論的に考えるだけで答えがでるものではないのです。

エンジニアが昔からユーザーのことを考えてきたことは間違いありません。しかしそれが問題を起こしていることも確かです。例えば人間中心設計やデザイン思考から、ユーザー要求を実現することが事業の目的とした場合に、表面的なユーザーの声を要求として設定し、一度設定するとそれを絶対視して実現のために動いてしまうことがあるからです。

このことはデザイン界隈では盛んに議論されており、非現状的なイノベーションや非短期的なサステナビリティの実現のために「超・人間中心設計」が必要になってくるでしょう。

実際にメーカーでデザイナーとして関わっている感覚では、エンジニアは80点は取れるけど何かが足りないと思うことが多くあります。多く場合ユーザーの概念モデルと利用文脈に関する問題です。デザイナーである自分は瞬間的/直感的にその不足に気づくことができることからも、エンジニアとデザイナーの違いを感じています。

この直感性は、理詰めでものごとを進めていくエンジニアリングとは違うものです。悪い言い方をすればいい加減さや曖昧さ、妄想や思い込みからくる無責任でリラックスした状態からしか生まれない特別な視点なのです。

デザイナーらしい特性には価値がある一方で、エンジニアリングがなければそれを実現することはできません。それぞれに限界があり協業することで補い合えるのです。


システム・オブ・システムズの扱い方

IoTを初めとして複数のデバイスやサービスを組み合わせて利用するものをシステム・オブ・システムズと呼びます。これまで1つの製品のことをシステムと呼んでいたため、システムのシステムということになります。

システム・オブ・システムズを開発する手法を「システムズ・エンジニアリング」と呼んだりします。しかしこれは内部機構による機能の実現を対象にしている印象があり私は良い印象がありません。

なぜなら体験設計を実現するシステム・オブ・システムズはユーザーとの適切な関係性やデバイスの役割分担を第一に検討をすべきであり、そのフェーズでは理詰めのエンジニアリングでやるよりもデザイニングによるプロセスの方が適していると考えているからです。「システムズ・デザイニング」と呼んだ方が良いということです。

システム全体を考える上流工程でシステムズ・デザイニングがしっかりとできているのであれば、下流工程の各デバイス開発はエンジニアリングとしてしっかりと実現していけば良いのです。


デザイン・エンジニアという職業

自動車や医療のように人の命に係わるデザインをしているデザイナーは「デザイン・エンジニア」と言えます。デザインに説明責任が問われるからです。具体的に言うとQMS(Quality management system)下で根拠を明らかにしながらデザインをす進めることになります。

近年ではその手法を他の製品やサービスにも展開し、ユーザビリティや体験価値を高めビジネスリスクを減らす動きも出てきています。特に行政機関が出すアプリやサービス、交通機関や銀行など社会インフラに関わるサービスでは重視されており、SNSや通販などでも安易な改変がビジネスに大きな影響を与えることから同様にデザイン・エンジニアリングが重視されています。

法規制、社会学、人間工学、感性工学など様々な視点から根拠が明解なデザインを進めていかなければならないため、デザインを構造的に進めることになります。体験設計フェーズでは「構造化シナリオ」、製品設計フェーズでは「デザインシステム」がそれにあたります。その2つをさらに構造的に扱い複雑化するシステムズを扱うのが「モデルベース開発」になると考えています。


企業に必要な人材とは?

最終的には、精度の高いデザイニングはエンジニアリングに近づき、曖昧さを工学的に扱うエンジニアリングはデザイニングに近づくことになりますが、先に書いたように完全に両方の視点を持つ人材は存在できないため職種としては両者がそれぞれを極めた形でチームとして連携していくことで最適な状態ななると考えます。

もしこれまでエンジニアが強かった企業ではデザイナーを上流工程のシステム全体の構想や提供価値を中心としたビジネス設計に参加させることで、新しい人材活用ができます。

そこで注意しなければならないのは、これまでエンジニアがやっていたように1回だけでデザイナーが感性で答えを出して進めるのは一番不味い状態ですので、アジャイルにプロトタイピングを回すプロセスと組み合わせてもらえればと思います。

企業内でデザイン・エンジニアという職業が成り立つためには、組織の壁が低くなり、情報が十分にオープンになっていなければそのような構造的な活動はできません。デザイナー自身も小さな壁の中で自分の感性だけでデザインをしていては単なるPost-It(面白発想)要員にしかなれませんので、積極的に連携と情報収集に努める必要があります。

さらにデザイナーが半端な感性でイノベーションの切っ掛けを作ろうとしても、世の中にはクリエーターやアーティストという工学からしっかりと距離を置いたイノベーション人材が存在していますので、自分がどちら側に向かうのかはっきりとする必要が出てくるかもしれません。

・・・

言葉遊びのように職業名について偏見に満ちたことを書いてしまいましたが、実際にそれぞれの職種を名乗っている人に当てはまる訳ではありませんのでご理解ください。ただ何かの本質や変化の兆しに繋げてもらえれば嬉しいです。

コロナによって社会が大きな変化を経験し、変化がこれまで以上に受け入れられやすくなった今年こそ、人材やプロセスレベルの改革の年にしたいと思います。




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