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第3章 「ゴミ野郎と怪物夫婦」

かつてメジャー誌で連載、数本テレビドラマ化もされ、
人気漫画家だったわたしTもいつしか仕事が途絶えて流浪のバイト生活に。
やがて辿りついたのはマンション管理人のアルバイト。
「人間の裏側が見える仕事」といわれるマンション管理人の日常とは?
赤裸々にマンション管理人の日常を描いた実録日記─。
連載第3回目です。

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 仕事を始めて一か月もしたある日、燃えるゴミ置き場にひとつの異様なゴミを発見。それはひとつの袋の中に缶や瓶やスプレー缶が一緒に入ったゴミで、しかも袋の底からは何やら臭(くさ)い液体が漏れているのである。生ゴミでもないのになぜ? わたしは早速袋を開いてみたのだが、その途端アルコールと何やら混じった臭(にお)いがツンと鼻をついたので、顔をしかめつつ中身をチェックしだして驚いた。缶や瓶は洗われていないばかりか中身が腐りかけた瓶や洗っていないツナ缶などがごちゃ混ぜになり、あの鼻をつく臭いは、ビール缶から漏れたアルコールとツナ缶から漏れた生臭いオイルが混じった臭いであり、おまけに全体にその〝混合液〞が攪拌(かくはん)されてベトベトであり、全くもって分別しようもない〝ゴミ野郎〞なのである! かといって、明らかに資源ゴミとすべき缶や瓶も交じっているのでこのまま燃えないゴミで出すわけにもいかず(燃えないゴミとして捨てていいのは油の瓶や水洗いしても臭いの取れない物に限るのである)、仕方なく水洗いして分別できる限り分別し、スプレー缶もガス抜き確認も困難なほどベトベトなのであるがやむなく燃えないゴミとして出すことにし、要するに最低限分別できる物を分別した上で残りは燃えないゴミで出すことにした。

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が、これを続けられると困るので、分別して出してもらうよう早速自筆の掲示(会社はきちんと印刷して掲示をしたいようだし、管理人が勝手な貼り紙などすることは好ましくないらしい)をしたのである。しかしまさかそのゴミが、現在進行形で6年後の今もなお出され続けているとは誰がその時想像し得たであろうか‼


 その掲示にもかかわらず2週間後また件(くだん)のゴミが出されていた(後でわかった事だがその〝ゴミ野郎〞はおおむね2週間おきに出される)。わたしは困惑と憤怒の念で分別を始めた。またあの悪臭である……と、その中に丸めた紙屑(かみくず)を発見した(この袋の中には燃えるゴミや危険な欠けたガラスとか色々な物が紛れ込んでいる!)。これが薬局で出された薬剤情報提供文書なるものの一部であり、そこに名前が記載されていて〝犯人〞の部屋番号と名前が判明したのである。本来他人のゴミの中を覗(のぞ)くことはやってはいけないことのようだが、この場合は仕方がない。わたしは〝やっぱり〞と納得した。というのも、最初からその夫婦には問題があったからである。

 中ほどの階に住み、2匹の犬を飼うその夫婦は西黒さんといい、〝アブドーラ・ザ・ブッチャー〞のような妻と〝せんだみつお〞のような夫のでこぼこコンビで、建設会社の営業からもすでに〝ズボラ〞というレッテルを貼られていたのだが、特にそのブッチャーの悪業(いたずら)たるやすさまじく、桃太郎侍なら斬って捨てるところだが、それは後でまとめて述べるとして、そのような情報があったので、問題のゴミを捨てるのもある意味納得であった。いやしかし納得している場合ではない、そのように厄介な夫婦にどのようにして改善していただけばよいのか? 管理人であるわたしは悩んだ!

 わたしのような管理人は本来清掃主体であるべきで、住民のお悩みやトラブルには積極的に関与すべきではないだろうと思う。実際、清掃担当の野山氏からは「絶対に、あなたが住民に改善して欲しいこと、あるいは住民間のトラブルなどに、直接介入してはならない。そういう問題を解決するために物担という役職があるのだから」と言われていた。言わば仲介役《住民⇅管理人⇅物担》としてその問題を会社に伝えて指示を仰ぐ、というのが主たる役割で、管理人としての清掃以外の役目はそこにあると思う。よってこの〝怪物夫婦〞の問題についても物担に相談した……がなにゆえ以後6年もの間この問題が解決されないまま今に至っているのか?


 物担はたまに来館し何か問題がないかチェックして帰るのだが、当然来館したその日も〝怪物夫婦〞について相談した。ただ清掃担当の野山氏からは「それは諦めて下さい。こういう人たちは絶対改心しないし、マンションによっては厄介なクレーマーがいるところもあるけど、そっちのほうが大変で、この夫婦の場合は〝ゴミ野郎〞さえ我慢すれば今のところクレームをつけてくることもないようだし、むしろこちらから何か言ったほうが逆にクレームも含めてもっとひどくなる可能性もあるから、とにかく諦めて下さい」と言われていたので、物担にとっても微妙な問題なんだろうな、とさほど期待していなかった。そのせいかこれに関しては日誌にも残っていないしわたしもおぼろにしか覚えていないのだが、ゴミ袋に残っていた名前が書いてあった紙屑(かみくず)を証拠に(しかしわたしはこんなに続くとは思っていなかったのでその場で捨ててしまった)、ゴミをきちんと出してくれるよう物担から伝えてもらったはずだがその時「証拠を見せろ」と言われ、エレベーター内およびゴミ置き場へ向かう裏通路をゴミを持って歩く防犯カメラの映像もあるが、ただ中身が例のゴミであるとははっきりわからないし確たる証拠にはならないので(絶対例のゴミなのだが!)、その問題は解決しないまま尻すぼみになってしまった記憶がある。しかしこの夫婦に確たる証拠を突き付けても「わたしたちの出したゴミではありません!」と真っ向から否定してくるに違いない。もしくは捏造(ねつぞう)だ! くらいに言いかねない、という確信を持ち〝だめだこりゃ〞という、いかりや長介にも似た諦念が生まれたのである。かといってやはり悔しいので掲示だけは続けようと思ったし(本当はそれもやめたほうがいいらしいのだが)、そしてあまりに腹立たしい時次のようなラップを作って拾い掃きをしながら、モップをかけながら、声に出して歌ってウサをはらしているのである!

♪管理人ラップ♪♪ 作詞・作曲 T

♪ヨー ヨー 俺はしがない管理人♪

◯階に住んでるバカ夫婦♪

♪名前は西黒 ハラ黒
    ゴミの分別(ぶんべつ)できねえ♪

♪ 分別(ふんべつ)のねえそのゴミ
    俺が選別してきた♪

♪早く引っ越してくれねえか?
    そんな予定は 当分ねえか ?

♪まだまだ続くゴミ地獄
    そして俺の分別(ぶんべ つ)地獄 ヨーーー♪


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本連載は、『元人気マンガ家のマンション管理人の日常』として
出版されました! 書店さんで見てください!

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『元人気マンガ家のマンション管理人の日常』
著者:元人気マンガ家T
発行:興陽館
定価:1,320円(税込)
四六判/208ページ



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