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それってホント効果ある? | 子育て支援の経済学 山口 慎太郎 (著) | #塚本本棚

万人を幸せにする支援策を人類はまだ探し当ててはいないようだ。本書にあるのはそこを突破しようとする経済・社会学者の苦悩の道のり。

今日は「子育て支援の経済学( https://amzn.to/3IObrVo )」 山口 慎太郎 (著) #塚本本棚

【紹介文】
いま日本に必要なのは、次世代への投資=子育て支援!
子育て支援のための政策を、私たちの「将来、未来への投資」と位置づけ、「少子化対策」「幼児教育」「母親就業支援」の3つを主なテーマに、経済学の理論とデータによる分析から得られた知見をわかりやすく解説!
科学的根拠(エビデンス)に基づき、効果的な政策を見極め、よりよい社会を創るための展望を描きます。


【書評】
私たちの世界は子育て支援に関して万人に効果のある答えをまだ見つけてはいないようだ。しかし、幼児教育は一定の格差是正効果と、将来の犯罪率などの低下に役立つことが示されている。


本書を読めば読むほど”難しい問題だな、すっきりしないな”というのがわかるが、今後思考を深めていくためにいろんなインプットを与えてもらったなと思う。


【本を読んで考えた・メモ】
・日本の出生率の低さが嘆かれることがあるが、アメリカもイギリスもフランスもスウェーデンも、人口維持の目安である2.1を下回っており、イタリア、シンガポール、韓国、香港、台湾などは日本より出生率が低い

・親は子供の養育費用を負担するが、その一方でその便益は個人的には受け取らない。しかし、これを年金制度に反映させる事で子供を持つことの社会的便益と親の個人的便益の一致を図る試みはある。例えばフランスでは子供が3人以上いる家庭に対して社会保障給付が10%増額されるなどの施策がある

・また多くの国々で行われているように子育て支援の原資を国債で賄う事により、次世代の負担で次世代の子育てを行う事が出来る

・現金給付や育休制度は子育ての質を高める方向には向かうが、出生率の向上(量の方向)には必ずしもつながらないという結果が出ている

・世界を見渡すと出生率の上昇効果は、保育施設の方が給付金を配布するよりも効果的との結果が多い。しかしながら、そもそもその国ごとに家族の形や働き方をはじめ、既存の支援状態も違うため複雑であり、それらを勘案してもなお有意な差が出ているとは判断できない。しかし、総じてどの国も男性の家事・育児負担割合が高い国ほど出生率は高い

・ドイツ、スウェーデン、デンマーク、カナダ、ノルウェー、オーストリアなどで行われた育休改革において、育休期間の延長は子供の発達に(長期的にも)ほとんど影響を与えなかった(親の育児と保育施設の育児の質が同等となるほど高かったことが差異を生まなかった原因ではないかとも推測されている)

・上記、親が育児することと保育機関が育児をすることの効果にほとんど差異がないのであれば、親は愛情を注ぐ事には集中するものの、それ以外の育児はアウトソースして共働きをする事が正しいのではないか

・一部例外として、オーストリアの研究では高学歴の母親が男児を育てた場合においては、育休延長が発達上有益と示されている点だが、これに関してはオーストリアでの保育所の整備の不十分が指摘されている

・育休期間が長期にわたると子供の5~6歳時点での言語能力の低下がみられる場合がある。これに対して、1歳を過ぎた子供の言語発達には家族以外の子供や大人とのかかわりを持つことが重要だとの指摘がある

・保育と幼児教育は、経済界の一大研究トピックとなっている。ジェームズ・ヘックマンの一連の研究は、幼児教育がいかに子供の人生を変えるかを明らかにし、オバマ政権の幼児教育政策を方向づけた

・幼少期における認知能力及び非認知能力への投資は、青年期の教育という人的資本投資がより効果的になるという事につながる

・研究によって、幼児教育は成人後に犯罪に関与する確率を減らし、健康面でも優れている傾向がある(これは今後の社会保障費の削減にもつながる投資ともいえる)

・幼児教育への費用対効果は、人的資本を向上させ労働所得の増加となり、その他にも犯罪の減少による社会的利益や社会福祉の利用が減る効用もあることから、株式投資の実質収益率をしのぐほどの効果を上げる優良投資プロジェクトであると言われている

・幼児教育に国が介在すべきなのは、それが認知能力の向上よりむしろ、非認知能力の向上による犯罪の減少に効果があったためだ(IQの向上はプログラム終了の数年後に消失した)

・日本の女性就業率は先進諸国と比べて決して低くなく、2014年以降はアメリカよりも高く2017年時には日本は77.5%であるのに対し、アメリカは75%である

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