ダレーのラスト・トリック

4枚のAのうち、テーブルに置いた2枚の赤いカードと
手に持っている2枚の黒いカードが交換される

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「Aの入れ替わり」とも呼ばれ
原案の演出では
スペードのカードを観客に渡し、更にクラブのカードを渡します(もしくはテーブルに置きます)
「スペードのカードはどちらですか?」
と尋ねますが
結果は予想に反して両方とも赤いカードに変わってしまい
スペードは演者の手にある
という形のようです

「愛とお金」のテーマで演じられることも多い交換現象です(この場合は手渡されるのは赤い方のカードです)

また、原案ではグライドなどを使うようですが
現在ではダブルリフトを2回やる手順が一般的です

シンプルで行いやすいので
4Aのみを使ったトリックの中では
最も有名なものの1つでしょう

私はせっかくなので全体を2段構成にしています

まず
スペードをテーブルに置き、その上に適当なカードを1枚乗せます
ここで
「今、スペードは下ですよね?しかし、魔法をかけると上になっています」
というシンプルな入れ替えを見せます
続いて
「もう一度やってみましょう」
といい
下にスペード、その上にクラブを乗せ
「今、スペードは下ですよね?しかし魔法をかけるとまた上になります」
と言って
テーブルではなく、その上の位置で手に持っているカードを見せると
そこにスペードが移動している
更に、手に持っているもう1枚を見せるとクラブも移動している
テーブルの2枚を確かめると
両方とも赤のカードになっている
という形です

こうすることでシンプルなショートトリックが
ある程度ボリュームを持たせることができるようになりました

更に私は
次のような演出で行っています

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さて、これから行うのは
『ラストトリック』
です

正確には
『ドクターダレーのラストトリック』

昔ダレーというマジシャンがいまして
これは彼が最後に発表したトリック
つまり遺作ですね

でも、これって少し面白い話なんですよ
今までマジシャンはたくさんいて
もちろんこの世を去ったマジシャンだってたくさんいます
だから、そのマジシャンの数だけ遺作はあるはずなんです

でも、マジック界でラストトリックと言えば
このダレーの作品を指すんです
なぜ、彼の作品だけが特別なのか?
それにはちょっとした理由があるんです

まずはこのトリックがどんなものなのか
ご覧になっていただきましょう

(マジック実演)

面白いトリックですよね♪


実はこのトリックには、マジックの大切なことが全てつまっているんです

シンプルで、わかりやすく、どんでん返しがある
そして、これはマジシャン側の理由ですが
比較的演じやすいんですよね

だからこのトリックは
マジシャンがまだ初心者の頃に覚えるのに最適なんです
実際、私自身も最初のレパートリーの頃からこれを演じています

つまり、ダレーにとってのラストトリックが
その後のマジシャンにとってはファーストトリックになっているんです
だからこそ、思い入れが深い

マジシャンにはいくつかの理想があります
1つは誰にもできないような自分だけのトリックを作ること
そしてもう1つは
後世のマジシャンに影響を与えるトリックを作ること

だって、素晴らしいじゃないですか
ダレーがこの世を去ってからもう半世紀にもなります
でも、彼が作ったこのトリックは
今でも、多くのマジシャンによって
多くの人を楽しませているんです


このトリックを演じる度に私は思います

人生色々なことが起こります
楽しいことは続いてほしいと思いますが
必ずしもそうはいきません
いつかは終わりが来てしまうことだってあるものです
でも
その思いを繋げてくれる人がいれば、それは決して終わることはない

1つの終わりは、また新しい始まりに繋がるからです

終わりというものは、そこで途切れてしまうものではなく
他の多くの人に伝わることを意味するんじゃないかと思うのです
そして、それを繰り返すことで、いつまでも繋がっていく


そういえば
『ラスト』という言葉も必ずしも終わりという意味ではないそうです
ファイナルというと完結とか終結なんですけどね

ラストは1つの流れの最後
つまりそのあとにまた続いていく可能性がある言葉なんです
それも含めましてこのマジックは
『ラストトリック』

最後のトリック・・・
ではなくて
次の始まりを期待する
そういうマジックです


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この演出をすることで
この演技はプログラムのクライマックスにも演じることができるようになりました

私はこの
「1つの終わりは、新たなる始まりにつながる」
というテーマが好きなので
このトリック以外にもこのテーマで演じるマジックがいくつかあります

一般的にはこのようなショートトリックをクライマックスネタにすることはないでしょう
しかし
テーマ次第ではどんなトリックでも充分にクライマックスの役目を担えるようになるのです


もちろんこのトリックは中ネタのショートトリックとしてもとても魅力的です

実際私はこのトリックの演出のバリエーションがあと
3つほどあります

シンプルだからこそ、大きな可能性を秘めたこのトリック
あらためて様々なアプローチを考えてみるのも面白いと思います

【マジックウォンド】

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