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ご縁を紡いだ先に広がる、「結果」としてのキャリア

「肩書複数有利説」は将来不安が起点

今回は日経新聞との連動企画「肩書を複数持つ必要ありますか」というお題について、考えてみたいと思います。

まず、お題である「肩書を複数持つ必要あるか?」について答えるならば、私は「どちらとも言えない」と考えています。1つの組織にずっと所属して、似たような仕事に長年向き合っていながら、キラキラと働いている知人もいれば、よくわからない名刺をたくさん持っている、ちょっと胡散臭い人に出会うこともあります。

この問いの論調は「これからの時代、肩書は複数あった方が良いと言われているけれど、それって本当?」ということですので、そもそも「肩書複数有利説」がベースになっています。そして、この説は基本的には将来不安が起点にあるはずです。

つまり、会社はいつ潰れるかわからない、あるいは今の仕事がいつ消え去るかわからない。だからリスクヘッジのために、あらかじめ収入を分散しておいた方が良い、というロジックです。

当然、収入源を複数持つためには二足、三足のわらじが必要です。そのときに言われがちなのは「100人に1人程度のキャラになれ」というもの。1/100と1/100をかけ合わせれば、1万人に1人のレアな存在になれると説くのです。

確かに、1万人に1人の存在になれるのは魅力的です。ただし、自分が本当に好きなことを追求した結果ならば、この上なく幸せなことですが、無理矢理にポジショニングすること自体が目的で、ただ打算的に100分の1を目指すのならば、私はそこにはちょっとした違和感も感じてしまいます。

つまり、将来不安がベースにあって(これ自体は大抵の人にあるはずですが)、その解決のために肩書を「無理矢理に」複数持とうとすることには、私は素直には同意できません。

ワクワクする仕事かどうかが基準

ここで私自身の話を少しさせてください。現時点での私の主たる仕事は、飲食店・商業施設のプロデュースやコンサルティングです。新しい飲食店をつくりたいという人、あるいは今ある施設をリニューアルしてもっと魅力的にしたいという会社などから依頼があって、それを実際に形にしていくというものです(言うまでもなく、コロナ禍ではなかなか大変です)。

同時に2005年から長い期間にわたって、飲食ビジネスをテーマにした学びの場も主宰しています。飲食店を開業したい人や、新たな食ビジネスを立ち上げたい人たちに対して、それを後押しするプログラムを提供しています。このスクール事業では15年間で1000人近い人たちと密に関わってきました。

さらに数年前からはある地方でクラフトビール醸造所の立ち上げを準備していたり、昨年にはコロナを踏まえて飲食店と家庭の食卓を繋ぐ食品EC事業もスタートさせたりと、仕事の幅自体は広がっています。

ちなみに、上記で述べた「店舗プロデュース」「スクール」「クラフトビール」「EC」の4事業はすべて別法人であり、私は4社の取締役の名刺を持っています。ただし、やっている仕事は「食」というテーマに限定されているので、肩書は4つとも言えれば、大きくは1つとも言えます(noteのプロフィール欄には「食べ物・飲み物まわりのプロデューサー」と記しています)。

では私はリスクヘッジのために、関わる仕事や法人を増やしているかというと、決してそうではありません。もちろん未来への不安はあります。けれども、むしろワクワク仕事をしたいという思いが、結果的に関係先を増やしているというのが実態です。「その仕事に関わったら面白いだろうなぁ」という心の声をとても大切にしています。

ご縁を紡ぐように仕事や人間関係を広げたい

世間で注目される起業家に関する本やインタビュー記事を見ると、「社会課題解決への責任感」や「自身の内側からほとばしる情熱」のようなものを感じることがあります。そうしたものを見聞きするにつけ、私自身には自分を駆り立てるような「熱量」がないことに気づき、彼らをうらやましいと思うと同時に、それがない自分を残念に感じる気持ちを併せ持つことがあります。

私は大学卒業後に、いわゆる大手企業に就職し、5年目に退職しました。そのときこそ強い意志を持って仕事を変えたものの(といっても社会変革の意識などありませんでした)、それから先は常に「流れ」に乗ってきたというのが、自身のキャリアを振り返ったときの実感です。

魅力的な誰かと出会い、面白そうなプロジェクトが生まれ、そこに誘ってもらったわけです。そういう意味では、能動というよりも、あくまで受動のスタンスで仕事をしてきました。さすがに社会人歴20年を越えると、自分の仕事スタイルは十分に理解していて、今さら「情熱の社会起業家」にはなれないことを自覚しています。

それよりもむしろ、声をかけてもらったこと、誘ってもらったことに強く感謝するようになっています。私自身は「仕事を丁寧にすること」と「人間関係を丁寧に構築すること」を意識してきたつもりです。それが「ご縁を紡ぐこと」に繋がり、結果的に関わる仕事や会社が増え、それにつれて自身の肩書も増えていったと思っています。

結果としての「コネクティング・ザ・ドッツ」

とは言え、私自身も「ただ受け身の姿勢で待っていれば良い」などと思っているわけでは決してありません。無理矢理に肩書を増やす必要性は感じませんが、「自分の引き出しを増やすための努力」は当然必要だと考えています。

上記の記事では、「イントラパーソナル・ダイバーシティ」、つまり「一人の中に幅広い多様性を持つこと」の重要性に触れています。そのためには個人としては「組織の外に意図的に出ること」が推奨されています(必ずしも、転社や転職という意味ではなく)。

また、個人的にはスティーブ・ジョブズの「コネクティング・ザ・ドッツ」のエピソードが好きです。詳しくは検索してもらえればと思いますが、ジョブズがカリグラフィー(字体を美しく見せる手法)を学んだことが、結果的にマックの美麗なフォントに繋がったように、コネクティング・ザ・ドッツとは、一見関係ないことが点と点を繋ぐように有機的に結びついていくことを意味しています。

ポイントは、それが「結果」であることなのだろうと私は理解しています。自分の興味を掘り下げていったことや、あるいは偶然の出会いを大切にしていったことが、結果として新たな価値に繋がっていく。私自身はこれからもそんな仕事観を持っていたいと思います。

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