日本のアルゼンチン牝系の馬はなぜ早熟なのか?

 前回の記事で、日本のアルゼンチン牝系の馬が早熟傾向にあることを示唆しました。

 今回はその続編です。なぜ日本のアルゼンチン牝系馬が早熟傾向なのか? について述べていきます。

 事前に知っておいてほしいことが2点あります。アルゼンチンの加齢についてと、アルゼンチンの牝馬3冠競走についてです。

 アルゼンチンは南半球なので、馬齢の加算が日本とは異なり7月です。つまり、7月は3歳0ヶ月、8月は3歳1ヶ月、9月は3歳2ヶ月、10月は3歳3ヶ月、11月は3歳4ヶ月……となります。

 続いて、アルゼンチンの牝馬3冠競走についてです。厳密に言えば、アルゼンチンに牝馬3冠というものはありませんが、3つの主要な3歳牝馬限定GⅠを牝馬3冠としてカウントできます。それが以下の3競走です。

・ポージャ・デ・ポトランカス(=桜花賞)
  開催時期は9月第1週~第2週(3歳2ヶ月)
・セレクシオン(オークス)
  開催時期は10月第1週~第2週(3歳3ヶ月) 
・エンリケ・アセバル(=秋華賞)
  開催時期は11月第1週~第2週(3歳4ヶ月)

 開催時期を見て分かるように、3歳の序盤にすべてのレースが行なわれます。日本ならば、2月に桜花賞、3月にオークス、4月に秋華賞をイメージになります。

 以上の2点を踏まえた上で、日本にいるアルゼンチン産の繁殖牝馬が、現役時代にどのようなレースを勝ったのか調べていきます。勝ち鞍に応じて3つのグループに分類しました。①2歳~3歳4ヶ月の間にのみGⅠを勝った馬、②3歳5ヶ月~3歳が終わるまでにGⅠを勝った馬、③古馬になってGⅠを勝った馬です。なお、GⅠ勝利のない繁殖牝馬は除外しました。

【2歳~3歳4ヶ月の間にのみGⅠを勝った馬】
アトミカオロ(Atómica Oro)
イスパニダー(Hispanidad)
エミレーツガール(Emirate's Girl)
オンディーナドバイ(Ondina Dubai)
カニョット(Cagnotte)
カルディーン(Caldine)
キャッチザカクテル(Catch The Cocktail)
サファリクイーン(Safari Queen)
ジュリエットシアトル(Giuliet Seattle)
スウィーティーガール(Sweetie Girl)
ストゥデンテッサ(Studentessa)
セレスタ(Seresta)
ナスティア(Nastia)
バラダセール(Balada Sale)
フアイナ(Juhayna)
フリアアステカ(Furia Azteca)
ポジティヴマインド(Positive Mind)
メチャコルタ(Mecha Corta)
ライフフォーセール(Life For Sale)
ワナダンス(Wanna Dance)
(計:20頭)

【3歳5ヶ月~3歳が終わるまでにGⅠを勝った馬】
クルソーラ(Cursora)
スクールミストレス(Schoolmistress)
センブラフェ(Sembra Fe)
ソシオロガインク(Sociologa Inc)
ソブラドーラインク(Sobradora Inc)
フィールザレース(Feel The Race)
マルアコストゥンブラーダ(Malacostumbrada)
(計:7頭)

【古馬になってGⅠを勝った馬】
ウォッチハー(Watch Her)
オジャグア(Ollagua)
グローバルビューティー(Global Beauty)
コンヴィクション(Conviction)
ティロレスカ(Tirolesca)
マルペンサ(Malpensa)
ミスセレンディピティ(Miss Serendipity)
(計:7頭)

 ①のグループ、早い時期にGⅠを勝った馬が、言い換えれば、早い時期にしかGⅠを勝てなかった馬が多いことが分かります。アルゼンチンの牝馬3冠競走には仕上がりの早さが求められます。早熟なアルゼンチン牝馬が日本に多く輸入されているため、日本のアルゼンチン牝系馬も母同様に早熟傾向を示すこと多いと推測できます。

「じゃあ、古馬になってからの成績を見てから購入・輸入すればいいのでは?」
 という疑問が生じるかもしれません。

 しかし、悠長に待っている時間はありません。というのも、アルゼンチンで2歳GⅠや3歳GⅠを勝った馬は、才能を見込まれて外国(主にアメリカ)に移籍することが多いです。アルゼンチンの牧場や馬主の側も、馬を売りたがっています。アルゼンチンではレース賞金で稼ぐのではなく、馬の売買で稼ぐのが基本です。古馬まで待っていては、他の人に買われてしまうでしょう。したがって、日本も遅れを取らないように2歳、あるいは、3歳の早い時期に購入しなければならないのですが、3歳で終わりの馬なのか、3歳以降も成長力のある馬なのか、これを見極めるのが難しいのです。

 また、あえて早熟な牝馬(①のグループの牝馬)を輸入するという意図が日本の牧場にあるのかもしれません。競馬の最大の目標は日本ダービーです。ダービーを勝つには、まずダービーに出走しなければなりません。ダービーに出走するためには、賞金が必要になります。となると、2歳から重賞を勝てるような仕上がりの早い馬のほうが有利なので、仕上がりの早いアルゼンチン牝馬を選んで輸入し、仕上がりの早い馬を生産しようとしているのかもしれません。

【まとめ】
◆ アルゼンチン3冠戦は開催時期が早く、仕上がりの早さを求められる。
◆ 輸入されているアルゼンチン産牝馬は2~3歳序盤のGⅠ勝ち馬が多い。
◆ 牧場があえて早熟なアルゼンチン牝馬を選んでいるのではないか。
⇒ 母馬が早熟であるため、産駒も早熟である可能性が高い。

 いかがでしたでしょうか。前回の『アルゼンチン牝系の馬は本当に早熟か?』では、アルゼンチン牝系の馬が早熟傾向にあることを示し、今回の『日本のアルゼンチン牝系の馬はなぜ早熟なのか?』では、母馬が早熟だから産駒も早熟なのではないかという説を唱えました。あまり情報の入ってこないアルゼンチン競馬ですが、少しでも皆様のお役に立てるような情報を提供できれば幸いです。

 なお、日本にいる南米産繁殖牝馬についてはこちらをご覧ください。

―― 完

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