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【後編】百貨店から生まれた生産牧場【ドニャ・イチャ&モシート・グアポ牧場】

前編のあらすじ

前編は ☞ こちら

 前回は、アルベルト・ソラーリ・マニャスコという大手百貨店ファラベッラ社の会長がタラパカー牧場を開いたこと、彼の長女でありベシア社の名誉会長リリアーナ・ソラーリ・ファラベッラがチリ No.1 のドン・アルベルト牧場を開いたこと、彼女の息子であるカルロス・エジェール・ソラーリがドン・アルベルト牧場を国内外で拡張したこととについて触れました。

 後編となる今回は、アルベルト・ソラーリ・マニャスコの3人娘の残る2人、次女マリーア・ルイーサ・ソラーリ・ファラベッラと三女テレーサ・ソラーリ・ファラベッラが開いた生産牧場について解説します。この2人も経済人としてだけでなく、サラブレッドの生産者として成功しました。


マリーア・ルイーサ・ソラーリ・ファラベッラ

 マリーア・ルイーサ・ソラーリ・ファラベッラは、1942年にアルベルト・ソラーリ・マニャスコの次女として生まれました。ファラベッラ社の株を保有し、主要株主として同社の経営に携わります。2015年にはフォーブス長者番付で782位に入りました。世界有数のお金持ちです。

 マリーア・ルイーサが結婚したのはマルセル・サロール・アタナシオという人物です。この人はチリ・スタッドブックの会長や、南米競馬機構(OSAF)の会長といった要職を歴任しました。南米競馬界の重鎮です。

 彼女が夫と共に開いたのがエル・シェイク牧場(Haras El Sheik)です。
GⅠ3勝のアウグーリ(Auguri)、最優秀2歳牝馬アレンタドーラ(Alentadora)、ダービー馬パローマインフィエル(Paloma Infiel)、日本で繁殖牝馬となったカサブランカスマイル(Casablanca Smile)など、数々の名馬を輩出しました。エル・シェイク牧場の繁栄は姉のドン・アルベルト牧場に匹敵するものです。

 エル・シェイク牧場は現在は存在しません。といっても、解散したわけではありません。

 2014年12月28日、マルセル・サロールが亡くなりました。夫の死をきっかけに、マリーア・ルイーサは牧場名をエル・シェイク牧場からドニャ・イチャ牧場(Haras Doña Icha)に変更しました。"Doña" は "Don" の女性形でスペイン語で「〇〇さん」を意味します。”Icha" はマリーア・ルイーサのあだ名です。彼女はイチャ・ソラーリと呼ばれていました。したがって、牧場を自分の名前に改名したわけです。

 夫の死から1年後の2015年11月4日、マリーア・ルイーサ・ソラーリ・ファラベッラは癌のため亡くなりました。ドニャ・イチャ牧場は娘のマリーア・セシーリア・カルレツィ・ソラーリと孫のロベルト・アリスペ・カルレツィに相続されました。現在はこの2人が生産牧場を運営しています。

 マリーア・ルイーサの競馬界での活躍は生産者としてだけではありませんでした。彼女は1994年5月19日から2015年3月18日まで、チレ競馬場の役員を務めました。チレ競馬場史上初の女性役員であり、競馬界における女性の地位向上に尽力しました。

 彼女を功績を称えて、チレ競馬場のGⅠ1000ギニーとサンティアゴ競馬場のGⅡコパ・デ・オロに彼女の名前がつけられました。現在では前者が「1000ギニー・マリーア・ルイーサ・ソラーリ・ファラベッラ」、後者が「コパ・デ・オロ・マリーア・ルイーサ・ソラーリ・ファラベッラ」となっています。


テレーサ・ソラーリ・ファラベッラ

 アルベルト・ソラーリ・マニャスコ3人娘の最後を締めくくるのが、1944年生まれのテレーサ・ソラーリ・ファラベッラです。彼女もマリーア・ルイーサ同様にファラベッラ社の株を保有し、同社の経営に携わりました。

 2000年、テレーサ・ソラーリは息子のフアン・カルロス・コルテス・ソラーリと娘のフランシスカ・コルテス・ソラーリと共にインベルシオネス・コルソを設立します。つまり、コルソ社という投資会社です。2014年にはフォーブス長者番付で395位に入った、2人の姉に負けず劣らずの超ド級のお金持ちです。

 そんなテレーサ・ソラーリが1989年5月1日にバルバライソ州カサブランカに開いたのがモシート・グアポ牧場(Haras Mocito Guapo)です。

 モシートグアポはアルゼンチンの競走馬で、父親のアルベルト・ソラーリ・マニャスコが開いたタラパカー牧場で種牡馬入りしました。メモ(Memo)やマレク(Malek)といったチリ競馬を代表する名馬を輩出し、種牡馬として成功をおさめました。彼女は父親への敬意をこめて、自分の牧場にモシートグアポの名を与えました。

 モシート・グアポ牧場は過去にはタンブルブルータス(Tumblebrutus)を、現在はグランドダディー(Grand Daddy)を種牡馬として供用しています。100頭近い繁殖牝馬を抱え、チリの馬産に大きく貢献しています。テレーサも2人の姉に匹敵する成功をおさめた生産者です。

 また、テレーサ・ソラーリもサンティアゴ競馬場の役員を務めました。姉のリリアーナ・ソラーリ・ファラベッラと同じく、現在は名誉役員となっています。現会長はリリアーナの息子カルロス・エジェール・ソラーリであるため、サンティアゴ競馬場はソラーリ家の本丸です。


 ソラーリ家と競馬の関係は百貨店ファラベッラ社から始まりました。アルベルト・ソラーリ・マニャスコはファラベッラ社を背景とするタラパカー牧場を、長女リリアーナ・ソラーリ・ファラベッラはベシア社を背景とするドン・アルベルト牧場を、次女マリーア・ルイーサ・ソラーリ・ファラベッラはファラベッラ社を背景とするエル・シェイク牧場(現:ドニャ・イチャ牧場)を、三女テレーサ・ソラーリ・ファラベッラはコルソ社を背景とするモシート・グアポ牧場を開きました。いずれの牧場も成功し、チリのサラブレッド生産に多大なる貢献をしました。

 今のチリ競馬は、アルベルト・ソラーリ・マニャスコとその家族・親族・血縁によって作られたと言っても過言ではありません。日本でも吉田家が圧倒的な存在感を放っていますが、ソラーリ家のそれは吉田家以上です。表現は悪いですが、ソラーリ家はチリの競馬界を半世紀以上にわたって牛耳っています。競馬で成功をおさめるには、競馬への情熱に加えて、資金も絶対的に必要ということです。

 前編・後編と2回におよんだチリのソラーリ家の紹介、いかがでしたでしょうか? 海外競馬を紹介する際に、経営陣に焦点を当てることは滅多にありませんが、どんな人が馬主をやったり生産をやったりしているのかを知るのは意外と面白いです。だいたい顎が外れるほどの大金持ちがやっているので、その国の経済を動かすような人物であることが多く、その国の経済を知るのにもちょっぴり役立ちます。機会があれば、これからも南米競馬に関わる大物経済人を紹介していきます。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)

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