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コスタリカ産馬が走った1997年の中米ダービーを振り返る

現地時間12月11日、ベネズエラのラ・リンコナーダ競馬場で中米選手権が行なわれます。今回は「中米選手権って何ぞや?」を軽く説明しつつ、ちょっと興味深いことが起こった1997年の開催を紹介します。

中米選手権と僕が勝手に呼んでいるのは『セリエ・イピカ・デル・カリベ』という大会です。直訳すると「カリブの競馬シリーズ」なので、中米選手権という和訳を当てています。

中米選手権は1966年にスタートしました。中米・カリブ海地域の国が代表馬を選出して競います。開催国は持ち回りで、過去にはアメリカのガルフストリームパーク競馬場が会場になったこともあります。

ある特定の1レースが行なわれるのではなく、いくつかのレースが行なわれます。スプリント戦や牝馬限定戦などです。イメージとしては中米版のBCという感じです。

レースの1つに『クラシコ・デル・カリベ』という競走があります。中米産の3歳馬が戦うレースです。アメリカ産馬やイギリス産馬は出走できず、純粋にその国で産まれた馬がその国の代表として戦います。いわば、中米ダービーです。これが中米選手権のメインレースになります。

中米・カリブ海地域の国が代表馬を選出して競うと言いました。ですが、現在はベネズエラ、メキシコ、プエルトリコ、ドミニカ、パナマの5ヶ国がメインです。エクアドルやジャマイカは近年ちょっと遠慮がち。

昔は参加国のバリエーションが豊富でした。

たとえば、1998年にトリニダード・トバゴのサンタ・ローサ競馬場で行なわれた中米ダービーには、パナマ、ベネズエラ、エクアドル、トリニダード・トバゴ、グアテマラ、ジャマイカ、プエルトリコ、ドミニカ、コロンビアの代表馬が出走しました。計9ヶ国というのは現在に至るまで大会史上最多の参加国数です。

ここから、ちょっと興味深かった中米ダービーを紹介します。

それが1997年の中米ダービーです。ベネズエラのラ・リンコナーダ競馬場で開催され、地元ベネズエラ代表のアリギエーリ(Alighieri)が優勝しました。

何が興味深かったのかというと、出走馬です。12頭が出走し、4頭がベネズエラ産馬、2頭がプエルトリコ産馬、2頭がコロンビア産馬、2頭がパナマ産馬、1頭がドミニカ産馬、そして残る1頭がコスタリカ産馬でした。

コスタリカ産馬!?!?!?

馬名の後ろにつけられる産地を示す国名コードで(JPN)や(GB)はほぼ全員見たことあると思いますが、(CRI)という文字を見たことがある人は少ないでしょう。コスタリカの略字が "CRI" です

そのコスタリカ産馬はルガーノ(Lugano)という名前の牡馬です。1994年4月25日にコスタリカで産まれました。父キルギス(Kirgiz)、母クレスタガール(Cresta Girl)、その父クレスタライダー(Cresta Rider)という血統です。

ルガーノがどういう経緯でコスタリカで産まれたのか、詳しいことは不明です。得られる情報から考えると2パターンあります。

母のクレスタガールは1987年6月12日にアメリカで産まれました。ということは、クレスタガールがキルギスとの仔を受胎した状態でコスタリカに持ち込まれたというのが1つのパターン。もう1つは、キルギスとクレスタガールがどちらもコスタリカに輸出され、2頭がコスタリカで交配したというパターンです。

EQUIBASE にはクレスタガールの産駒が登録されています。1993年に産まれたプリシル(Purisil)という牝馬です。つまり、ルガーノの半姉にあたります。この馬もコスタリカ産馬になっているので、おそらく後者のパターンが濃厚かなぁと思います。

ルガーノはコスタリカ産馬ですが、コスタリカでは走っていません。競走生活はパナマのプレシデンテ・レモン競馬場で送りました。

中米ダービーに出走するまでの通算成績は17戦4勝。4勝はいずれも下級条件のレースだったそうです。

気になる中米ダービーの結果ですが、ルガーノは10着入線でした。ビリじゃない! エルソナドール(El Sonador)とエルフアナディーノ(El Juanadino)という2頭のプエルトリコ代表馬に先着しました。

さらに、2着入線だったベネズエラ代表のロマスティ(Lomaxti)が後日イソクスプリンの陽性反応で失格となりました。ルガーノの最終着順は9着でした。

1997年の中米ダービーが、中米選手権史上初めてにして史上唯一のコスタリカ産馬の出走でした。コスタリカでは競馬らしい競馬が行なわれておらず、現在はカリブ競馬連盟の構成国からも外れているので、今後コスタリカ代表馬が中米選手権に出走することはないでしょう。とても貴重な瞬間でした。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)
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