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日の出海岸②

浜辺へ

みんなで火を囲んでいた。

Oさんがギターを弾いて懐かしい歌を歌った。
Mちゃんも最近流行った歌を歌った。
どちらの歌もとてもよかった。

KさんがMちゃんに
「眠れない夜とかある?」
と突然訊ねたりした。

みんなで笑った。

Oさんが餃子を焼いて、みんなで食べた。
とても美味しかった。

お酒と談笑が進み、皆の中心にある炎をより鮮やかにしていた。

この夜は快晴で雲がなく、月はまだ出ていなかった。
そのため星がとてもよく見えた。
名古屋では見たことがないくらいたくさん見えた。

少し前に長野に一人旅し、夜中にあぜ道で仰向けに寝転んだ時と同じか、それ以上に綺麗だった。

あとから知ったことだが、この日はおうし座流星群が一番よく見える夜だった。僕の星座はおうし座なので、あとからそれを知った時に感動した。

この地域は移住者が多い。
地元民の一人であるけん玉達人さんがこの辺の暖かい海で見る事ができるあるものの話をした。

そして、そのあるものを見に行こうと、皆で囲んでいる火がある芝生エリアを離れ、浜辺へ移動した。

光る浜辺

浜辺へ行くと打ち寄せられた波が白く泡立っていた。

と思ったが、実際には白く泡立っているわけではなく、青く光っているのがすぐにわかった。

夜光虫というプランクトンの一種が発光しているのだ。
浜辺に見に来たあるものとは夜光虫のことで、この日は地元の人すら見たことがないほど強く発光していた。

あいにく今の僕にはカメラマンとしての腕が皆無なので、ネットで調べると出てくる画像のような写真を撮る事が出来なかったが、少しだけその発光を写すことができた。

肉眼ではもちろんカメラで捉えた以上の光を見る事ができ、それは天空の城ラピュタで出てくる飛行石の様な輝きだった。

その輝きは海水面だけではなく、浜辺で足を踏み出すたびに足元にも現れた。

上を見れば満点の星空、下を見れば青い光の浜。

脳内トリップで完全に宇宙。

刺激に反応して発光するため、砂を海水に向けて投げたりして楽しんでいた。
そんな中でKさんはズボンをまくって、膝ぐらいまで海に入り豪快に発光させていた。

すごいよ、Kさん……。

揺れる、踊る

夜光虫の幻想的な風景を存分に楽しんだ後、再び火のある場所へ戻った。

各々が興奮交じりにあの甘美な輝きについての感想をとばした。

ひとしきり話してその熱が収まる頃には夜はかなり深くなっていた。

ぽつぽつと家に帰る人も出てきたところで、僕は革命児さんと和菓子職人さんと音楽の話になった。
革命児さんはイベントの企画をするかたで、DJもやったりすることもあるそうだ。

Spotifyでフォローしているアーティストを見たりしながら、たくさんいい音楽を教えてもらった。

革命児さんが企画したイベントで岡山に呼んだアーティストは僕も好きなアーティストだったりして、そのイベントの時のライブ音源を聴いたりした。
革命児さんは車からJBLのBluetoothスピーカーをとってきて、火を眺めながらその音源を聴いた。

眠たい人たちを尻目に、音楽で盛り上がる気持ちを抑えきれずに身体が揺れた。
そして、その揺れは次第に大きくなり火を前にして革命児さんと踊ったのはいい思い出だ。

ちなみに、この方がやっている「頭悪い系サンドイッチ」というものをいつか必ず食べてみたいと思っている。
身体にも悪そうだが、それがまた良い。

そして、そのうち音楽はしっとりと聴き入るような音楽へ。

火の前に腰を下ろしてふと見ると、残った人たちはほとんど寝転がっているではないか。
まさかここで寝る気ではないだろうな?

と思ったら、けん玉達人さん(キャンプの達人でもある)は暖かそうな寝袋に入り込み、すでにご就寝。
Kさんも寝袋に入って寝ていた。

すごいよ、みなさん……。

その二人以外はしばらく起きて話をしていた。

貴重なライブ音源を聴き終わり革命児さんがそろそろ帰るというので、僕もそれにあやかって帰る事に。

寝ている人もいたが起きている人に別れを告げ、その場を離れた。
火の近くを離れると寒さが一気に身を突き刺し、帰り道よくあんなところで寝れるなぁと感心しながら歩を速めた。

それから

後日、ココカ古書店でKさんに会った。
あんなところで寝れるなんてすごいですねと言ったら「いや、死にかけたよ笑」と言っていた。

実はそのあとすぐに二回目のキャンプファイヤーに参加したのだが、その時もKさんは真っ先に寝ていた。
ただし、二回目の時は装備を完璧にそろえていた。

暖かく寝れたけどなにか虚しかったとKさんが言っていた。
これは大事な感覚かもしれない。

いや、そもそも、ここの人たちは「帰宅する」という選択肢がないのだろうか。
家すぐそこなのに。

そして、キャンプファイヤーで出会ったEさんとは二日後に日の出海岸でまた会った。

先日はどうもといった挨拶をすると、「今日暇?一緒に車やすらない?」と言ってきた。
車を塗装したいのだが、事前にやすっておくと色が綺麗に入るとのことだった。

幸い、特に予定もなかったため、車をやするのを手伝った。
日の出海岸に来てから初めてすることが多くて楽しい。

快晴の昼下がり、Eさんとは色んな話をしながら車をやすった。主に「循環」について。
そして、手伝ったお礼にEさんがその前日に人から頂いた牡蠣をアヒージョにしてふるまってくれた。

アヒージョにはパンが合うだろうと、僕は近くのスーパーにパンを買いに行った。
外でアヒージョを作り、パンをトーストして挟んで食べた。
ニンニクをたっぷり入れた牡蠣のアヒージョサンドは最高に美味しかった。

すると今度は一人のおじさんがすぐ近くでテントを張りだした。
話をするとこれから一週間カヌーで旅に出るそうだ。
テントは久しぶりに出したものだから試し張りをするのだという。

色んな人が集まって本当に面白い所だ。

カヌーのおじさんが手を出してと言って、差し出した僕の手に何かを載せた。

近年の海水温の上昇のせいなのか、このあたりでもサンゴが流されてくるようになったらしい。
生態系の変化に複雑な想いを抱きながらも、もらったサンゴのかけらにどこか愛おしさを感じた。

おじさんはカヌーを海へ滑らせ、颯爽と去っていった。
見送った後しばらくEさんと浜辺に打ち上げられた色んなものを拾った。
かっこいいもの、かわいらしいもの、わけが分からないもの、色んなものが打ち上げられていた。

黙々と下を見ながら、あの夜光っていた浜辺を歩き回った。
この世で循環している色んなものを拾いながら。

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