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ミシンを拾ったお話。

今から11年前の今日に、ミシンを拾ったことを書いていました。
結構丹念にアルバムにしていたので、ちょっとずつ加筆しながらこちらでも。
ものづくりの視点って、特殊なことではなかったんだなあと感じています。


最初の出会い

出会いは夜でした。向かいの三宅さんち。
粗大ごみシールが貼ってありました。

翌日

で、翌日にもありました。
悩んだんですが、思いきって三宅さんちを訪ねることに。
「あ、ミシン?」ちょっと立ち話。
で廃棄料の1600円をお支払いして、三宅さんは「収集の断りは私からしておきますから」とおっしゃってくれました。かなり重いんですが、ガラガラと持って帰りました。

鎮座した様子

当時の「住居兼オフィス」はますます狭くなりました。でもこの存在感。
さて、今は昔の工業製品と対峙してみるか、と思ったのであります。
しかし綺麗だよねえ。三宅さん大切にしてたんだなあ。

すっきりしたテーブル前面


足踏みプーリー部

さすがにベルトのテンションを調整するところのバネはヘタってました。でももっと驚きなのはこれベルトが革製ということ。よくよくみると樹脂パーツがひとつもない。昭和の工業製品への驚きの旅が始まりました。


脚部

総てのビスがマイナスビス、おそらく「すりわり」と呼ばれていた時代のビスです。(僕の予想ですが「すりわり」はおそらく「擦割」か「削割」と書くんじゃないかな?真ん中に一本線を入れてふたつに分けるんだから間違いないと思うんですが、調べても出てきませんでした)
ともかくこのミシン製造時に中心の精度が必要となるプラスビス時代ではなかったことがうかがえます。
マイナスビスってかっこいいんだよね、でもビス製造の工業技術が上がったのと、マイナスビスは回転させる時に中心に向かう回転軸がブレるので今はもうほとんどつくられていません。メガネ用とか装飾用、あとは大径の皿ビス(これは反対側でナットを回転させる時に固定用だと思う)くらいな感じですかね。

脚部アップ

鉄鋳物、鋳造による製品のため、丹念に「抜け勾配」が設計されています。
「抜け勾配」というのは砂型鋳造の際、砂型から原型を取り出す際に一方から引き抜かないと砂型が壊れてしまうために設定する斜め部分です。(説明だけではわかんないですよね、今度鋳造の話はマンガも交えて)
また鋳造欠陥を避けるのと、全体の軽量化を考慮した裏面の肉の抜き方になっています。

裏面懐部(ここにミシン本体が入っています)

さて、背面部は綺麗なRがとってあるのですが、薄い木板を曲げ木加工しているのはかなり工芸的に思えます。

懐部アップ

画像左の斜めラインが曲げてある木板です。1.5mm程度の付板を二枚接着した合板を裏面に沿わして留めてありました。高周波なんてありえないので蒸して曲げて沿わせてでしょうね、現代では曲げわっぱとか、工芸品でしか見ない手法です。このミシンの木部、釘は極めて少ないのですが、ここには反り返り防止のために虫ピンのような釘が使われていました。

抽斗部分

「釘が極めて少ない」と書きましたが、このミシンの木部分、こんな作りになっているからなんです。もはや「指物」です。ミシンという工業製品がこんな感じに作られている、この「手間」が当たり前だった時代を感じます。


テーブルコーナー部

天板もホゾで組まれ、丁寧に面取りがしてありました。
上面には仕上げ用の薄い「付板」を貼ってあるはずなんですが、糸面の仕上が美しすぎてこのホゾがなければ一枚ものの天板だと判断したと思います。
そのくらい、細部の仕上げが繊細です。




抽斗の溝

抽斗横の溝、「吊りざん」とのあわせも泣けます。現代の製品ならスライドレールをつけるところですが、溝を合わせてすり合わせしているだけ。端部はドリルで手加工された仕上がりになっています。


抽斗

引出しの中にはおばあちゃんの忘れ物。
ん?プラスチック?と思ったら壁面のエアコン通気口のカバーでした。まあ、いらないよね。
しかし、抽斗の上面は通常隠れている部分だから他と比べて塗料の劣化も少なく、当時の姿を感じ取ることができます。ニス塗る前にもちゃんと仕上げをしている。

斜め抽斗(正しい言葉かどうかわからない)
回転して開きます

正面の「斜め抽斗」ここは収納時にミシンの本体がいますので懐を深くできない。
そこで考えられた抽斗方式だと思います。現代的な言い方をすれば「フラップ式」ですが、以前なんと呼ばれていたか調べてもどうしてもわからないです。
もしもご存知の方がおられましたら教えてください。


もう片方の抽斗の中

もう片方の抽斗の中にはボビンケースとか部品の一部とかが入っていました。
で、手前の丸いお椀のようなもの。これは僕も最初なんだかわからなかったのですが、ミシンの脚の先端、キャスターが転がらないように止めるカバーでした。
一木をロクロで削り出してあります。今では考えられない材料選定と工法です。


かわいいのでちょっと磨いてみた。

なんか苔玉とか入れたくなりますね。


まだミシンの本体まで行きついてないのですが、今日はこれまで。
ミシンを開けるとこれまた痺れるものがバンバン出てくるのであります。


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