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読書の記録 よしもとばなな『アルゼンチンババア』

 ええ話やった。じんわり熱いものがこみあげてきた。語り手は18歳の「私」。「私」の母親が亡くなったところから物語は始まります。父親は墓石を作る職人。どこまでも職人気質な職人なんですが、時代は次第に墓石に職人気質を求めなくなります。最愛の伴侶に先に旅立たれ、天職である墓石職人は時代から爪弾かれて。そんな父親が、いつのまにか、「私」界隈では「アルゼンチンババア」の名で変わり者として認識されている女性の住む廃屋のようなビルに入り浸っていることを「私」は知り、驚きながらも「私」は、父親とアルゼンチンババアが暮らしているらしいビルへ足を踏み入れます。

 そこからアルゼンチンババアと父親の暮らしぶりが明らかになっていくのですが、その2人の暮らしが何というか、理想的すぎて、しかし、この理想的空間が仮に身近にあったとしても、私にはそこへ入り込む勇気はない。私にはいつのまにか理想的だと思うその場所にさえ、足を踏み入れられない生き方が染み付いてしまったのだと悲しくなるのですが、いやいや、そやけど、今のこっちの暮らしだって、なかなかのもんなんやぞ!と思ってみたり。

 父親とアルゼンチンババアの、アルゼンチンババアがアルゼンチンババアでなければ、ビルが廃屋のようで異質なビルでなければ、なんの変哲もない日常生活に、どうしてこんなに憧れてしまうのでしょう。外から異質なものを眺めて「アルゼンチンババア」と揶揄っているだけの人には、一生、その素晴らしさがわからないのだろうな。そんな人生はイヤだと思った。

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