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『本の雑誌 2020年4月号 特集 さようなら、坪内祐三』と「文庫本を狙え!」のこと

2月に那覇へ行った時に、牧志公設市場にある「市場の古本屋ウララ」(素敵なお店)で「本の雑誌 2020年4月号 特集 さようなら、坪内祐三」を買った。帰りの飛行機で読むのにちょうどいいかなくらいに思っていたけれど、すこぶる読み応えがあって、とてもいい買い物になった。

生前交流があった人たちからの「追悼のことば」が味わい深かったのだが、その中でも「彼が同業者を何人か集めてタクシー会社の宣伝のような雑誌を拵えたとき、これはダメだと思った」「新宿の狭い「文壇」とやらに入り浸って、英語の本を読む習慣を忘れてしまったのは、彼の凋落の始まりだったような気がしている」と喝破した四方田犬彦の文章と、生前坪内が通い詰め、ほんの些細な行き違いで絶交してしまった新宿三丁目のバーの女主人が、絶交(女主人はそれを否定しているけれど)に至った日の出来事を淡々と綴った文章が出色だった。

追悼の文章でも座談会でも、とかく取り沙汰されているのが坪内の酒癖の悪さだ。絶交を言い渡されたり逆鱗に触れた本人ですらどの発言や態度が坪内をそこまで怒らされたのかが理解できていない。ぼくの友人にフリーで編集やライターの仕事をしている男がいて、彼も一度仕事がからんだ酒の席で、坪内にずいぶんと叱られたことがあるらしい。「何かがいけなかったんでしょうね」と淋しそうにつぶやいていたが、そういえば先週一緒に飲んだ時にこの特集の話をするのを忘れていた。今度あらためて経緯を細かく聞いてみよう。

ぼくは坪内祐三の著作を少ししか読んでいないけれど、週刊文春で連載していた「文庫本を狙え!」は長いこと愛読していた。とても親切な人がこの連載で取り上げた書籍の一覧をアップロードしてくれていて、タイトルや日付を眺めているだけで、あの当時何をしていたか、どんな状況でその本を読んでいたかが蘇ってくる。2006年に取り上げた『ジョシュア・デイビス『負け組ジョシュアのガチンコ5番勝負!』(ハヤカワ文庫)』なんかは、どの一説を引用して紹介していたかも覚えている。

とうの昔に品切れ、絶版になっているタイトルが多いけれど、Kindleで読めるタイトルもわりとあるので、コツコツ読んでいきたい。ちょうどKindleストアで講談社文芸文庫の一部が安くなっているから、川崎長太郎の『もぐら随筆』や伊藤桂一の『螢の河 源流へ』を買おうかな。

あと、本の雑誌社から出ている、連載の終盤の回をまとめた『文庫本宝船』と『文庫本千秋楽』を買わないと、なんだか申し訳が立たない気がしてきた。


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