【ジャストシステム「一太郎」の栄光と衰退】2023年6月12日

 この記事の中でWindows95がWordと抱き合わせで販売され一太郎が切り替えられたと書かれているが、実は一太郎もWindows95と抱き合わせで販売されていた。つまり、Windows95が発売された直後も一太郎の快進撃は続いており、Wordに負けたわけではない。

 ではなぜ一太郎は衰退したのか。

 実は当時(現在も)求められていたアプリケーションは一太郎やWordではなくExcelだった。巨大な計算機であったパソコンは主に表計算専用機として使用されており、一太郎やWordはまだワープロ専用機と争っていたのだ。パソコンを使いたい人の多くはWindowsとExcelとのセットを求めていたのである。

 しかし、Excelは当然ながら同じマイクロソフト製のWordとのセットで抱き合わせ販売されており、一太郎と抱き合わせ販売されていた表計算ソフトは「ロータス1-2-3」だった。多機能すぎるロータスは当時は機能が少なく、扱いやすいExcelとの戦いに敗れ、消えていくのだが、その犠牲になったのが一太郎だ。当時も今もWordは最低最悪のアプリであり、一太郎に勝る点は1点もなく、それは最新版でも変わらない。だが、Excelはロータスより優れていた。ちなみに一太郎のジャストシステムからは三四郎という表計算アプリが出ていたが、ほとんどの人に知られない存在。

 1995年当時は「一太郎とExcelのWindowsセットがあれば買うのに」という声が多かった。パソコンとWindowsとアプリケーションを別に購入すると80〜100万円。抱き合わせのセットであれば50万円そこそこという時代。どうしてもExcelが必要だったビジネスマン、そして会社は仕方なく一太郎を諦め、WordがセットになったExcelを選んだのだった。

 インターネットもまだ「Trumpet Winsock」というアプリで接続をして「Mosaic」というブラウザで文字ベースのWebサイトを見ていた時代。しかしMosaicを買い取ったマイクロソフトがInternet Explorerに昇華させ(Mosaic開発者はのちにNetscape Navigatorを制作した)、ネット接続が身近になった1998年、Windows95とExcel98、Word98が同時発売されて状況がいっぺんする。多くの人がExcel、WordがセットされたWindowsパソコンに買い替えを行った。理由はコンパック、ゲートウェイなど米国の安価なパソコンの流入で一気にパソコンの低価格化が進んだためだ。ここで一気に一太郎はシェアを落とすことになる。

 ちなみにこの年、もっとも売れたパソコンはiMac。時代は再びスティーブ・ジョブズが復帰したAppleへと向かい、Mac版のWord、Excelが久々に発売された。実はWord、Excelともに1984年のMacintosh128k発売に合わせてマイクロソフトが他社から購入してパッケージを変えて販売したアプリ。ちなみにWindowsもMS-DOSも他から購入したものでマイクロソフトがいちから開発した大型アプリケーションは存在しない。

 一太郎は町工場のごとく、ゼロから開発し、夫婦が二人三脚で地道に販売してきたアプリ。下町ロケットのような存在だったが、池井戸潤の小説のように大企業の力技によって大きく運命が変わってしまった。そして小説やドラマと同じく、マイクロソフトは自社が持つ多くのアプリは販売不振となり、OSは無料化したため利益を出せず、ポータルサイト、SNS、ゲームといった事業は失敗して撤退。すでに風前の灯と言える存在なのである。

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