【宇野昌磨の回転不足とランピエールの存在】2023年12月4日

 先日のグランプリシリーズ第6戦日本大会、いわゆるNHK杯での宇野昌磨の演技は素晴らしかった。素人目には完璧に見えてたのだが、あまりの点数の低さに驚いた。

 実際にはフリーで186.35点。ショートとの合計286.55点は素晴らしい点数であるのだが、誰もが余裕で300点は超えてくると思われたから低く感じられたのだ。この理由はすべてのジャンプで回転不足が指摘され、GOE(Grade of Execution)すべてがマイナス評価になったためだ。これがすべて0もしくは+になっていたら300点に達していた可能性が高い。

 回転不足は常にスケーターを悩ませる。ジャンプは難易度順にサルコウ、トゥループ、ループ、フリップ、ルッツ、アクセルの6種類。よくアクセルを+半回転とする解説者がいるが、これは間違い。スケートのジャンプの着地はスケート靴の形状によりすべて後ろ向きにしかできないため、前から飛ぶアクセルがほかのジャンプより半回転多くなってしまうだけで、これは回転が増えたものではなく、飛び方の種類の問題。なので先に述べた6種類というのは間違いではない。

 それぞれのジャンプは踏み切りのスケートの歯の位置(トゥかエッジ)と踏み切りの足の左右で決まる。つまりそれだけしか決まっていないため、意外に個性が出る。そのためどれが正しいジャンプかは毎年変わる。審査員も人間なので絶対的に正しいものを判断することができない。そのためどのスケーターが正しく飛んでいるかを決めて、それを基準にして点数をつけている。

 キム・ヨナ全盛期は彼女が「正」だったため、浅田真央がどんなにキレイにジャンプしても回転不足となっていた。ちなみに羽生結弦は長年男子の基準だったため彼の点数は異常とも言えるほど高かった。

 羽生結弦が引退した今、男子の基準は大きく変わったと言われている。特に絶対的な王者がいない今は基準となる選手が分かりずらい。そして今シーズンのテーマは「厳密」と言われている。

 話を宇野昌磨に戻すと、彼の飛び方というか演技全体的な特徴は、抜群に上手いスケーティングを生かした流れるような演技構成だ。ステップシークエンスからジャンプへの自然な流れは誰も真似できないもの。身体は硬いが体幹が強く、上体を反らせて滑る「クリムキンイーグル」は彼の代名詞でもある。

 ただ、この流れる演技がクセモノで、ジャンプの前の助走がかなり長くなる。ここから流れるように踏み切るのだが、審査員には助走とジャンプ態勢が混ざっているように感じるのだ。そうするとジャンプの態勢に入っていながら氷から足が離れていない時間が長いと判断され回転不足となるのである。

 ジャンプは3回転であっても実際に3回転している人は皆無だ。ひどいときには2.6回転くらいしかしてなくても我々の目からはキレイな3回転に見える。審査員にとっては実際の回転数は関係ない。判断つかないからだ。見るべきは踏み切りと着地である。着地はかかとからキレイに降りないと身体がブレるので分かりやすい。分かりにくいのは踏み切りだ。ここを厳密に見られると多くの選手が回転不足になる。宇野昌磨の場合は助走が長い、もしくは流れるように演技するため踏み切りが遅いと判断されてしまう可能性が高い。

 これが今回の宇野昌磨の回転不足の正体だ。

 多くの人は「それはあまりにひどい」と思うだろう。これでもフィギュアの判定は正しい方向に向いていると思う。伊藤みどりやハーディングの時代に今の判定があったら多くのスケーターの精神は病んでいたであろう。それほど以前は曖昧であり、ザギトワやキム・ヨナのようなジャンプ以外は何もできないような選手を生んでしまうことになるのだ。

 さらに問題なのはランピエールだ。プルシェンコとともに王子の名を持つスイスのスケーターは同性愛者の疑いを持たれている。もちろん本田真凜と交際している宇野昌磨は同性愛者ではないが、ランピエールのマイナスイメージは協会全体としてあまり喜ばしいものではない。宇野昌磨が現在世界でもっとも優秀なスケーターであることは明白であり、グランプリはもちろん五輪での活躍の可能性も高く、ポスト羽生結弦の筆頭だ。宇野昌磨が勝つことでランピエールが注目されることをヨシとしない動きもあるのではと勘繰ってしまうのである。

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