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バルセロナに学ぶ、データサイエンスを駆使した「まちづくり」

3月25日に開催された第3回都庁デジタルセミナー。今回は、都職員に加え、区市町村のデジタル担当職員にも門戸を広げ、「都市とテクノロジー」をテーマに、東京大学 先端科学技術研究センターの吉村有司特任准教授にお話しいただきました。

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吉村氏は、コンピュータサイエンスの博士号を持つ建築家として、人工知能(AI)やビッグデータを応用した都市計画や、まちづくりに取り組んでいます。スペイン・バルセロナの都市計画などに15年以上かかわった後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で研究員を務めました。今回は、吉村氏の講演から、東京が世界的な先端都市になるためのヒントを探ります。

職員のデジタル分野に対する知見を深めるべく、東京都では「都庁デジタルセミナー」を開催し、さまざまな専門家に講演いただいています(過去のセミナーレポート:第1回第2回)。

「データサイエンス」と「ボトムアップ」によるまちづくり

都市計画やまちづくりのあり方は、いま大きく変わろうとしている——。吉村氏はこう述べます。

具体的には、(1)テクノロジー(工学)からデータサイエンスへ、(2)トップダウンからボトムアップへ、という変化です。

(1)テクノロジー(工学)とデータサイエンス

これまでのまちづくりは工学的なアプローチが中心に据えられていました。都市を拡張する際、建築家やプランナーは、

「この道は何人くらい通るので、幅5メートルにする、光が部屋まで入ってくるよう、家と家との間は3メートル開けるようにする、といったように、工学的に都市を作ってきました」と吉村氏は言います。

しかし、近年は、デジタルテクノロジーの進化によって、例えば、携帯電話の電波を使って人流データを集めるなど、都市における様々な活動のデータを収集し、科学的に分析することが可能になりました。

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「今まで都市計画やまちづくりは技術(テクノロジー)だけの話だったのが、ビッグデータに基づいた科学(データサイエンス)の要素が入ってきたのです」と吉村氏は力説します。

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(2)トップダウンからボトムアップへ

かつて町を作るときは、著名なスター建築家やスタープランナーが、トップダウンで町の姿を決めていました。例えば、オスカー・ニー・マイヤー氏の「ブラジリア首都計画」などがその代表です。

しかし、現在は、「トップダウンで本当に良いのかという声が出てきています。今後は市民中心でまちを作っていく流れになるのは確実です」(吉村氏)
実際、市民中心のまちづくりを進めようとする動きが出ていますが、具体的にどう実現すればいいのかわからず、取組が進まない自治体が多いのが実情、と吉村氏は言います。

バルセロナのまちづくり

こうした中、データサイエンスを活用しボトムアップによるまちづくりを行っているのがバルセロナです。

その中心的な役割を果たしているのが、市のICT部門であるバルセロナ情報局(IMI:Institut Municipal d'Informatica)です。1967年に設立され、職員数260人(うちICT専門職220人)、年間予算は約100億円にのぼります。

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「ニューヨークやサンフランシスコなどのICT部門は2000年代に設立されました。それに対し、バルセロナは約55年の歴史があり、知識や体験の積み重ねは、世界でも類を見ません」(吉村氏)

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また、IMIが開発したオープンソースのツールの中で、ボトムアップによるまちづくりを推進する大きな武器となっているのが、市民参加型の合意形成プラットフォーム「Decidim」です。世界で180の政府機関や自治体に導入され、日本でも渋谷区や兵庫県加古川市などが採用しています。

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Decidimでは、ユーザーが上げた議題に対して、市民がさまざまな意見を出し合いながら、熟議を重ねていきます。

オープンかつアジャイルに意見をくみとる新たなデジタルプラットフォーム構築に向けて

吉村氏も携わる「渋谷ママチャリプロジェクト」では、東京大学とMIT、一般社団法人の渋谷未来デザインが組んで、親子の移動と暮らしに優しいまちづくりを進めています。

このプロジェクトでは、小さな子どもを持つ母親の意見を集めるためにDecidimを活用しています。例えば、「緑道と商店街が交差するエリアについて」という議題に対して、「夏のラジオ体操をやりたいが、この時間帯の通行が心配」「エリア内にラジオ体操する場所がないので、ぜひやりたい」など、100を超えるコメントが届き、活発な議論がなされているそうです。

「現場感あふれるコメントが届き、建設的に議論が進んでいます」と吉村氏は言います。

その上で、さらなる議論の活性化に向け、「Miro」というビジュアルコラボレーションツールも導入しています。「Decidimは文字情報がベース。それと並行して、地図のような視覚的な情報を一緒に見ながら議論をすると、また違ったコメントが出てくることがわかりました」と吉村氏は手応えを感じています。

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最後に、吉村氏は「今ではビッグデータを収集し、それをサイエンスとして分析できるようになりました。まちづくりの変化として捉えて、日々の業務にも取り込んでいけば、東京も良い都市になるのではないでしょうか」とまとめ、講演を締めくくりました。

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「シン・トセイ」戦略では、インターネット都政モニター(都政の緊急課題等に関する意見・要望等を専用サイトで調査)やネットリサーチの活用など既存の広聴手法に加え、よりオープンかつアジャイルに意見をくみとる新たなデジタルプラットフォーム構築に向けた検討を進めていくこととしています。

今回ご紹介いただいた事例など、様々な取組を参考にしながら、都民等との「オープン」な協働の実践に向けた検討を進めていきます。

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今回のセミナーはオンラインで実施しましたが、講義終了後、1月末に開設した『TOKYO UPGRADE SQUARE』において、戦略政策情報推進本部、総務局、港湾局など各局のDX推進に取り組む職員が集まり、講義の感想や各局で取り組む具体の事例などを話し合いました。

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各局の取組等を共有。宮坂副知事(写真左端)も参加されました。

『TOKYO UPGRADE SQUARE』では、行政とスタートアップの交流の場として、都政課題に活用できるスタートアップの技術やサービスの掘り起こし等を行うピッチイベントをはじめとした各種イベント・セミナーなどを開催していく予定です。この場所を核として、スタートアップと行政、相互の理解を深めて実践を積み重ねることで、多様化する行政課題の解決につなげていく強固な協働スタイルを構築し、都政のQOSを高めていきます。

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