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酒は百薬の長って本当か!?


初っぱなからネタバレ、でたらめです

中国の漢王朝、前漢と後漢の間の混乱期に現れた、短期王朝“新”の悪名高き愚王「王莽(おうもう)」が、「酒は百薬の長でとても素晴らしいものだから、これの販売権は王宮が独占する!」って、利権を独占する為に持ち上げるだけの言葉だった。他にも、塩や鉄にも同様なことをいって、専売特許にしている。

面白いのは、そんな適当な発言にもかかわらず、「酒は百薬の長」という言葉が呑兵衛の免罪符のように現代まで受け継がれてるってことで、それだけ酒を飲みたい側と止めさせたい側の攻防は続いてきたってことなんだろうな(笑)


空海『酒はこれ治病の珍、風除の宝なり』(酒は風邪予防に良いよね)

平安時代の初期に中国に渡り、最先端の教えである密教を持ち帰った天才僧侶空海が、言ったお言葉!
この後、「治病の者には塩酒を許す(体調が悪い人には、塩を摘まみにした酒一杯を許可するよ)」ってのが続く。
仏教には戒律というものがあって、飲酒は禁じられている筈なんだが、命には代えられないと、薬として許可する感じだったようだ。

東洋医学的見地によると、「薄めた酒は血行を良くする。喉の渇きを治め、ストレスを軽減する」とある。
薄めた酒というのはだいたい、アルコール度数8%以下。
更に、現代科学で分かっていることといえば、「薄めた酒であれば、善玉コレステロールの増加。狭心症の予防び効果が期待できる」とある。


アルコール、呑まない人が一番長生き?

だがしかし、死亡リスクとか諸々鑑みるとアルコールの摂取はどうなんだいって全体的に見ると…。
学術論文で、一日に何CC呑む人と、全く呑まない人と、調べていった結果、最も死亡リスクが低いのは、一日のアルコール摂取量どのくらいの人だったかというと、0、全く呑まない人が、最も長生きしますよって結果だった😅

何かいろいろ矛盾があるが、確かに飲酒が狭心症予防にある程度の効果があるにはあるんだが、それにしても呑めない人が健康の為にわざわざ呑むというほどではない、という見解に落ち着いている。
総合的にいろんな見地から考えるに、呑まないのが一番死亡リスク低いんじゃないって結論に落ち着いたと。

この知見がエタノールの摂取量だけで導き出されてるので、他の条件はどうなのかという疑問も残るわけだが、人間は実験動物じゃないんで、そこまで厳密な精査もできなかったと。

日本の厚生省が、どのくらいまでなら呑んでもそんなに体の負担にならないよと言っている数値は、一日辺り純アルコールで20g程度。
清酒だと一合。缶ビールだと一本分。
女性だと更にそれを下回る、ということらしい。

摂取量0がいいという学者さんの見解によると、アルコール摂取には以下のリスクがある。
・老化の原因物質であるAgeの増加のせいで、老けるぞ
・口内炎できるぞ
・出血性胃炎が起こるぞ
・膵臓炎も招くぞ
・沈黙の臓器、肝硬変!
・アルコール性心筋症
こういうリスクを考えたら、呑まなきゃ呑まない方が良いんじゃないの、って見解だ。


日本人は比較的酒に弱い民族だってのもある


アサヒグループホールディングスHPより

上の画像の通り、アルコールは肝臓内でアセトアルデヒドに分解されるんだが、こいつが毒素として体内を傷つけるから、速やかに酢酸に分解される必要があるわけだ。

アセトアルデヒドの凶悪性を理解して貰う為に紹介するが、シックハウスの原因物質ホルムアルデヒド、梅干しを百年保たせる紫蘇に含まれるペリルアルデヒドといった強烈なお仲間がいる。

このアセトアルデヒドを分解してくれる、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)は毒素を分解して酢酸に変えてくれるんだが、この酵素にはALDH1とALDH2の二つがあって、このALDH2は特定の民族にだけ存在し、分解を阻害する力を持っている
その結果、そもそもアセトアルデヒドを分解できない民族になってしまう。
お酒をアセトアルデヒドまでは分解できても、アセトアルデヒドを分解できないということは、長らく毒素が体内に留まって、ずっと二日酔いしっぱなしになるわけだ。

この辺りにはいろんなタイプがあって…
・心地よいほろ酔い加減が長いけど、二日酔いにはならない
アルコールをアセトアルデヒドに分解するのは遅いけど、アセトアルデヒドを酢酸に分解するのは早いぞ。

・酒豪
アルコールはすぐ分解しちゃうし、アセトアルデヒドもすぐ分解しちゃう、ざるとか枠とか言われるタイプ。

・ほろ酔いが長続きして悪酔いしたあげく、二日酔いで寝込むタイプ
アルコールの分解にも時間が掛かるし、アセトアルデヒドの分解にも時間が掛かる。体を壊しやすいので注意!

・お酒に弱い人
アルコールの分解は速いけど、アセトアルデヒドの分解は遅い人。
すぐに顔が赤くなるタイプ。「あたしお酒に弱いのよ~」って、ぽぅって顔が赤くなっちゃうタイプ。

・下戸
アルコールの分解が遅かろうが速かろうが、そもそもアセトアルデヒドを分解できない人。

これらを大雑把に統計を取ったところ、日本人の42%が、お酒に弱い人や下戸だったそうだ。

で、その人口分布を調べてみると、中国・近畿・北陸・中部と日本の真ん中にぎゅっと集まっている。
逆に、東北や南九州の人は酒の分解能力が高い人が多い。


下戸は環境適応によって獲得した性質!

そもそも人類の発祥の地であるサバンナで、下戸が生きていくことはできなかった。
なぜならば、豊かな森を捨てて二足歩行を獲得した人類は、腐りかけの果実(アルコール発酵しかかったやつ)が食えなければ生き残れないから、という説が有力。
ということは基本的にホモサピエンスは酒の分解能力があるはず。にもかかわらず、酒の分解能力がない人たちというのは、元々劣っていたからではなく、後天的に獲得した性質なのではないかという説が浮上している。

では、このアセトアルデヒドを分解できない人がどの地域に分布しているかという分布図を調べ上げた論文がある。
その結果、見事に稲作文化圏と丸ごと被る。
学者さんも考察するわけだ、稲作文化圏というのは気候が温暖湿潤気候だ。
暖かくてじめっとしている。南中国や東南アジア辺りだ。
その辺りの特徴といえば、雑菌やウイルスが発生しやすい。
それをそのまま体に取り入れると、食中毒を起こしやすい。
そこで、毒素であるアセトアルデヒドが、外敵である雑菌を体内で退治してくれる。
人間も、二日酔いに苦しみながらも、アセトアルデヒドのお陰で生き延びることができたと。

ここで生まれた新しい遺伝子を持った人たちが、分布を広げ、日本へと渡来人として渡り、稲作文化を伝えたと。
弥生文化と縄文文化のぶつかり合いでもあったわけだが、縄文文化が残った東北や南九州の人たちの酒の強さも、見事にその説を裏付けるってわけだ。

現在では、弥生人も縄文人も入り交じっている。
関東出身のお袋は、酒に弱いタイプだったが、九州出身の父親を持つ俺は酒に強い。
そんな感じで、遺伝子の悪戯で酒への強弱がランダムに振り分けられるものの、日本では呑めない人が多いという結果なんだろう。


アセトアルデヒドを分解してできる酢酸って、健康に良いよな!?


まあ、アセトアルデヒドを分解できない下戸の人たちはさておき、アセトアルデヒドを分解した結果生成されるのは、酢酸。一般的に健康に良いと言われるお酢であるわけだ。
ここから先は、たべものラジオの武藤太郎さんの見解なんだが、凄く共感を覚えたので紹介。
納得でも理解でもなく、酒飲みとしての共感😂

酢酸というのは、いわゆる短鎖脂肪酸。
健康意識が高い人はご存じだと思うが、腸内細菌の中でも善玉菌といわれる人体に良い働きをしてくれる腸内細菌の餌となる成分だ。

で、この酢酸というのは飲んでもあまり効果はないらしい。
基本的に、体内で生成した方が良い。
ということは、アセトアルデヒドを分解さえできれば、必ずしも体に悪いとは言い切れない、むしろ良いってことにもなるよな。
ただ本当に、肝臓に負担が掛かり過ぎれば、肝硬の変(俺の造語)でぽっくりってのはあり得るから、自分の体調や主治医と相談がてらってことになるのかな。


酒は体に良いと言われていた時代の“酒”の実像

空海が活躍していた平安初期時代辺りは、酒を漉す技術がないもんだから、透明ではない濁り酒が主流だった。
アルコール度数は2~3%で、アミノ酸がとても豊富。更に乳酸が残っているからちょっと酸っぱい。
火入れをしてないので酵母が生きている。
アルコールはさておき、甘酸っぱい乳酸菌飲料ってことになる。
現代でいえば、ヤ○ルトとか加糖ヨーグルト。
とても体に良いんじゃないか。

その当時の人々の健康状態はというと、貴族は酒の飲み過ぎで体を壊している。
だがそれは、膵炎だの肝硬変ではなく、糖尿病(笑)
その当時の日本酒の糖度、30%。バナナが16%だから、相当なもんだな。
これを常飲していた藤原道長も、重度の糖尿病だった。
来年度の大河の主役だよな。

『この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる ことも なしと思へば』って歌を詠んだ50代の頃には、糖尿病のせいでほぼ目が見えてなかったとか…。

江戸時代の酒は、貴族や特権階級はさておき、庶民が飲む酒は『むらさめ』などと呼ばれていた。
これは妖刀村雨に肖って『キレ味が良い』なんて解釈もされたようだが、実際は全然違う。
「町で飲んだけれど、村に着くまでに冷めちゃうよ」ってくらい、水で薄めたうっすい酒のことらしい(笑)
洒落たネーミングだが、切ない。

東海道中膝栗毛でも、弥次さん喜多さんが旅の道中、居酒屋の主人から次に向かう町の酒屋への伝言を頼まれてる。

「水入れ過ぎだから、ちょっといい加減にしろ!」って言っとくれって。
つまるところ、酒に水を入れて薄めるのは常識なんだが、それにしても薄めすぎだから、弁えろことなんだな。ちなみに”水増し”の語源(笑)
実は、現代の酒も水で薄めているのがデフォルトなんだが、それにしても江戸の当時は酷かったって話らしい。
こんだけ薄い酒だったら、そうそう健康を害することもないよなって推論は成り立つだろう。
ま、現代人には何の救いにもならないシチュエーションだな!


現代の酒飲みの救世主? 生まれてから死ぬまで酒を主食に生きる民族、デラシェ族!

高低差のある農地を毎日30km近く歩く生活にも関わらず、50歳~60歳になっても皆健康

エチオピア南部の山岳地帯に暮らす民族なんだが、立地状況によってトウモロコシぐらいしか生産することができず、さてどうやって完全栄養食を手に入れようかと試行錯誤したあげく、酒麹の力やらを借りて、生み出すことに成功したっていう感じらしい。
これを一日五リットル飲む。幼児などは薄めて度数を低くしたものを飲む。

パショルータという酒なんだが、アルコール度数は3%程度で、研究者によると必要なカロリーと健康要素、パショルータ五リットルで摂取可能。

さて、酒だけ飲んで暮らす生活、羨ましいかと問われると、多種多様な食が溢れてるのに慣れた日本人としては、ちょっと無理だな。


酒はエンプティーカロリーだから太らない!? → NO!

ビールやワイン、日本酒といった醸造しただけの酒に糖分が残っているのは、ある程度既知だとは思う。
コンビニのおにぎり一個がだいたい180キロカロリー。
清酒一合、およそ200キロカロリー。
缶ビール一本(335cc)150キロカロリー。
ワイングラス一杯(200cc)180キロカロリー。

だから、酒おかわりするごとに、おにぎりばかすか食ったことになる。
その辺りを配慮してか、本当の会席料理には主食は付かない。
ずっと酒のつまみとして出されているから、最後の最後に止め椀という空っぽのご飯茶碗が出されて締めとなるらしい。

で、俺もだまされていた、蒸留酒はエンプティーカロリーだから太らないというのも嘘だった。
エンプティーカロリーとは、滋養が皆無な純粋なエネルギーってことで、そいつがある限り、お摘まみのエネルギーは使用されずに脂肪として蓄積され、蒸留酒のカロリーだけが使用されていくというのが真実らしい。
いろいろ調べるのって大事だな…。

更に、体内にアルコールとアセトアルデヒドがある状況というのは肝臓にとってかなり危険な状態なので、肝臓への差し入れとしてある程度の糖分を入れてあげるのも重要ってことだ。


筋肉質で体が大きい人ほど、アルコール分解能力は高めだよ!

アルコールを分解してくれるADHやアセトアルデヒドを分解してくれるALDHは割と筋肉中にあるってことだ。
だから、筋肉の量が多い人の方がアルコールを早く分解しやすい。
体が大きい=保持する血液量も多いってことだから、相対的に血液中に存在するアルコールの率も低下するって単純な話だよな。
力士が酒に強いのは道理ということで。
酒に強くなりたければ、とりあえず筋肉を鍛えよう!
筋肉は、裏切らない!!!

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