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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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2023年5月の記事一覧

【短編小説】仲介役は、自分に向けられた好意に気が付かない。

クラスメートの男子から、今回の件の顛末を聞かされた。聞きながら、そうだろうなと思った。毎回、私の予想を裏切ってくれないかなと思いつつ、それが叶えられたことはない。 どちらにせよ、結局、私の橋渡しは実らなかったわけで、私は彼に向かって「ごめんね。」と言った。彼はそれに対して、困ったような笑みを浮かべる。 私に謝られても困るだけだろうとは、分かっている。でも、力になれなかったことには謝っておかないと。相手は、「気にしなくていいよ。」と言って、寂しげな顔でその場を後にした。私は

【短編小説】僕たちは同じような事を考えてた。

自分しかいなかった部屋の隅に、いくつか段ボール箱が運ばれ、その持ち主が今日、こちらに向かって、ペコリと頭を下げた。 「これから、しばらく、よろしくお願いします。」 「・・気使わなくていいから。」 彼女は、僕の言葉を聞くと、顔をあげて、微笑んだ。 「本当にごめんね。芦田君しか頼れる人がいなかったの。」 「もう何度も聞いた。」 学生の時には、それなりにやり取りがあった彼女から連絡があったのは、一ヶ月ほど前の話。離婚することになった彼女が、次の仕事が見つかるまで、家に置いて

【短編小説】私の代わりに彼女を愛してくれ

玄関先に出てきて、こちらに向かって深々と頭を下げる彼女の姿を、俺は言葉なく見つめていた。顔をあげて、彼女はその大きな瞳を俺に向ける。 「お久しぶりです。佐野さん。」 「君たちの結婚式以来だね。」 「すみません。主・・正樹さんが無理なお願いを。」 「いや、君が気にしなくてもいい。」 「ここではなんですから、どうぞ中へ。」 「お邪魔します。」 通されたのは応接間で、座り心地のいいソファが設置されていた。彼女がテーブルにティーカップを置くと、自分も向かいの席に腰を下ろした。

【短編小説】貴方は彼女のことが好きなんだと思います。

誰かのことが好きなのかどうか、それは傍から見るとよく分かったりする。たとえ、本人がその気持ちに気づいていなかったとしても。 マッチングアプリで知り合った男性と、ドライブに行くことになった。 私はその人と初対面だったが、あまり緊張はしていなかった。なぜなら、その時の私は、アプリで知り合った人と会うことを繰り返していたから。大学生になって初めてできた彼氏に振られてから、私は彼を忘れるために、少しだけ女性らしい綺麗な格好をして、異性に会う。もし、いい人だったら、そのまま付き合っ