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永作矢射子はまっすぐ明日を見つめている

真剣な目、真剣な表情ってごく当たり前の表情だとは思うけれど、この役を演じる人の目はじっと見ているには強すぎる。

矢射子。これは12月公演で鈴木ゆうはさん(空チーム)、岡本尚子さん(海チーム)、二人が演じる役の名前です。

矢を射る子と書いて矢射子。どんな強い女の子だろうと想像しますが普通に良い子です。もちろん弓も矢も持ちません。

名前に関しては永作博美さんの名字から拝借。どことなく幼気で無邪気で笑顔が素敵な女の人、というのが当初描いていたものでした。キャスティングされた二人の名前を伺い、そして稽古場で繰り返される稽古を続ける中で、ああ、この二人が矢射子だったのだなと思うに至りました。

作中で明かされる彼女の過去、真実は決して明るいものではないでしょう。家族を愛し、家族をただひたすら研究所で待ち続ける生活を送る。会いたいのに会いには来てくれない家族。彼女の心をつなぎとめるのは家族からの手紙のみ。そうやってもう何年も何十年も生きてきた。孤独。遠い温もり、孤独。

羨ましいものでもないですし、かわいそうと思う人も出てくるかもしれない。でも彼女は今も生きて、そこにいるのです。その意味を考えると、強い子なのだなと思う。そして笑顔を振りまく彼女を見ていると、もしも神様がいるのなら、どうかもうこの子には苦しみを与えないでほしいと切に願う。どうかその日が訪れるまで、どうか心安らかに、生きてくださいと祈りたくなる。

稽古当初、やはりというか、私自身もそのように演じていることに違和感を覚えなかった。影、陰、闇、暗、、底なしの静けさ、感情の欠落、そういった負の塊、弱々しく、どこか病弱さすら感じるようなその存在、触れていいものやら悩ましいほどに儚い姿。

しかしそうじゃない、今もこうして生きているということは、強さがある、明るさがあるはず、落ちるときもあるだろうがそれだけじゃない、本当の姿を浮かび上がらせたい。と思ったときから、もっとやってもっとやって、と繰り返す私に応えてくれる矢射子たち。

ああ、君はそうやって笑っているのだな、笑えているのだなと思う。それは決して矢射子を知ることにはならない。理解したことにはならない。笑みを見てその底にある彼女の本当の素顔を知った気持ちになるのはおこがましいことだ。きっとその深く、手の届かない底には笑顔じゃない矢射子が一人座っているのだ。

物語も終盤で矢射子の素顔、笑みの後ろの素顔が顕になるのだが、稽古も終わりに近づく中で二人の矢射子はそっと私の前に「永作矢射子」をそっと届けてくれた。

儚くも切なくも惨めな気持ちにもなりながらもただ明日を信じて生きている彼女を愛して欲しい。誰かの分も愛して欲しい。生きて、ただ、生きてと願う。

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