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【デジタル教科書】今後の在り方、中間まとめ公表

GIGAスクール構想で21年4月から1人1台端末が小中学校に本格的に導入されていきます。デジタル教科書は、端末を利活用する上で、当然考えられている要素の一つです。ですが、まだデジタル教科書については、検討事項が多く残るトピックでもあります。
そんな中、2021年3月17日に、文科省より「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議 中間まとめ」という資料が公開されました。この検討会議は、児童生徒1人1台端末環境におけるデジタル教科書・教材の活用促進について専門的な検討を行うことを目的として2020(令和2)年6月に発足され、児童生徒1人ひとりが端末を持った際のデジタル教科書の在り方に関することや、それを踏まえた制度的なことを検討しています。

1.現状のデジタル教科書に関する制度と提言内容

<現状>
● デジタル教科書は、平成30(2018)年の学校教育法等の一部改正等により制度化された。
● デジタル教科書とは、紙の教科書の内容の全部をそのまま記録した電磁的記録であることとされた。それ以外の教材は、「デジタル教材」と呼ばれる。
● 令和元(2019)年度から、一定の基準の下で、必要に応じ、教育課程の一部において、紙の教科書に代えて使用することができることとなった。
● その使用については、文部科学省告示において、各教科等の授業時数の2
の1に満たないこととされている。理由は児童生徒の健康に関する留意。
<現状対する提言内容>
● 2分の1に満たない使用について、本検討会議では、2020年12月に必要な対応方策を講じるとともに、当該基準の撤廃をすることを提言した。
● ICTの活用に関する教師の指導力の向上のための施策等を講じていくことを提言した。
● 文科省に対して、これを踏まえ現行基準について定める「学校教育法第34 条第2項の改正を令和2年度中に行い、令和3年度から運用すること提言した。
● デジタル教科書の本格的な導入は、次の小学校用教科書の改定時期である令和6年度を目指す。

2.デジタル教科書のメリット

令和3年1月の中央教育審議会答申においてもICTは学校において「個別最適な学び」と「協働的な学び」を充実させるツールとして重要であるとしており、今回のまとめでは、デジタル教科書になることで、様々なメリットがあると細かく説明しています。
(関連記事:2020年代に目指す「令和の日本型学校教育とは?
メリットは、大きく分けると3つに大別されます。

<児童生徒の理解を促す>
・ デジタル教材との連携がしやすく、動画や音声等を併せて使用することにより、学びの幅を広げたり、内容を深めたりすることが容易になる。
・ デジタル教科書に書き込んだ内容を大型提示装置に提示することにより、どの部分の説明をしているのかが視覚的に分かるため、児童生徒が、教師の指示や説明はもとより、他の児童生徒の説明の内容なども理解しやすくなる。

<児童生徒の一人で試行錯誤を繰り返しやすくなる>
・直接画面に書き込みができ、その内容の消去や、やり直しを簡単に行うことができるため、作業に取り掛かりやすく、試行錯誤することが容易である。

<児童生徒の協働的な学びを助ける>
・ ペア学習やグループ学習の際、デジタル教科書に書き込んだ内容を見せ合うことで、効果的に対話的な学びを行うことができる。話合いの際に相手の意見を書き足したり、自分の意見を変更したりしながら活動できるため、より相互の理解を深めることができる。

3.今後検討しなければならないこと

メリットや意義は十分に考えられてきていますが、同時に検討しなければならない案件が山積しています。今回の中間まとめに記載されている事項を列挙してみました。列挙するだけでも多くの検討事項があることが理解していだけると思います。

● デジタル教科書に共通して求められる機能や、デジタル教材等との連携の在り方
・デジタル教科書に共通して求められる機能
・デジタル教材等との連携の在り方
● 障害のある児童生徒や外国人児童生徒等への対応
・障害のある児童生徒に対する配慮
・教科用特定図書等との関係
・外国人児童生徒等に対する配慮
● 児童生徒の健康面への配慮
● 教師の指導力向上の方策
● デジタル教科書を学校や家庭で円滑に利用するための環境整備の確保
● デジタル教科書にふさわしい検定制度の検討
● 紙の教科書とデジタル教科書との関係についての検討

4.筆者が気になる2つのこと

デジタル教科書については、以前少し関わる仕事をしていたこともあるのでその意義については前向きなのですが、2つのことで気になる点があります。

1つ目は、デジタル教科書のビューアなどの共通規格を誰が取りまとめていくのかという点です。
教科書は、通常、教科等によって異なる教科書発行者の教科書が使用されており、一方で、現在デジタル教科書はそれぞれの教科書発行者が教科特性等に応じてビューアや配信システムを開発している状況です。当然、現在は、規格や機能が異なっていて、今後、学校においてデジタル教科書を複数の教科等で使用するようになれば機能等が共通化していることがより重要になると考えられます。
ただ過去に、CoNETS(コネッツ)という複数の教科書会社で作成された組織が空中分解を起こした通り、机上ではうまくいく話も現実ではうまくいかないケースがあります。今回の中間まとめに記載されているような「共通して求められる機能」という点においても、CoNETSも最初は、「最低機能を統一している」としていました。しかし、各教科書会社は採用シェアを奪い合うライバルでもあり、違いや独自性を出そうとした結果、共通機能はほんの一握りの機能になり、結局は瓦解してしまいました。
なので、提言に記載された理想的な状況を誰が作り出していくのかということが気になるところです。あの時とは、デジタル教科書について文科省の関わり方も異なっていますので、今度はうまくいくことを望んでいます。

もう一つは、教科書のように無償で配布するのかという点についてです。こちらについても、中間まとめ資料に下記のように記載されていました。

教科書無償給与制度との関係については、全国的な実証研究の成果や、デジタル教科書の普及状況を踏まえながら、前述の紙の教科書とデジタル教科書との関係に関する検討と併せて、義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律に基づく無償措置の対象について検討することが望まれる。

小中学校における教科書は無償で配布されていますが、当然制作コストはかかっており、そのコストを教科書会社に支払っているのが税金です。デジタル教科書やデジタル教材を作るとなればさらなるコストがかかることが予想され、そのコストはどのようにまかなっていくのかということが気になるところです。
時代の流れなので、有料ということにはなりにくいとは思いますが、個人的にはどのくらいのコスト増になるのだろうかと気になったところでした。

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