教育と著作権について調べてみました
2021年1月23日にサーティファイ著作権検定委員会が主催した「学校と著作権との向き合い方」オンラインセミナーに参加しました。このセミナーで様々な視点をいただけたので、ICT化が進む教育と著作権の法について調べてみることにしました。
1.発端は、著作権法の改定
平成30年(2018年)5月18日に、「著作権法の一部を改正する法律」が通常国会にて成立し、平成30年5月25日に公布されました。
デジタル・ネットワーク技術の進展により、新たに生まれる様々な著作物の利用ニーズに的確に対応するため、著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直し、情報関連産業、教育、障害者、美術館等におけるアーカイブの利活用に係る著作物の利用をより円滑に行えるようにする。
<著作権法の一部を改正する法律 概要>より
上記は、世の中全体の著作権に関する法律の改定ではありますが、第35条に教育に関する条文が含まれており、今回その改定も行われました。
②教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)
・ICTの活用により教育の質の向上等を図るため、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、許諾なく行えるようにする。
【改正前】利用の都度、個々の権利者の許諾とライセンス料の支払が必要
【改正後】ワンストップの補償金支払いのみ(権利者の許諾不要)
<著作権法の新旧対応表>
従来は、紙での配布は無許諾で可能でしたが、インターネット利用の送信など、教育現場であっても原則として著作権者の許諾を得ることが必要でした。ただ、教育のICT化に伴い、著作物を円滑に利活用するために教育の情報化に対応した権利制限が整備されることとなりました。
簡単にまとめると教育機関の設置者が文化庁の委託団体に補償金を支払うとその教育機関に所属する先生や生徒は、著作権者の許諾が不要になる制度(授業目的公衆送信補償金制度)です。
とはいえ、無尽蔵に著作物を使えるという訳ではなく、利用できる場面や人が定義された運用指針も同時に公表されました。<改正著作権法第35条運用指針>
2.コロナの影響で「授業目的公衆送信補償金制度」が早期施行された
「授業目的公衆送信補償金制度」は改正公布(2018年5月25日)から3年以内(2021年5月)までに施行することになっていましたが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、オンラインでの遠隔授業等のニーズが高まり、2020年4月28日に施行が早められ、文化庁からこの制度の20年度版の運用指針が公表されました。<改正著作権法第35条運用指針>
ただし、急遽施行されたため、2020年度は、特例的に補償金金額を「無償」とすることが決定していますが、2021年度から本格的に有償での制度がスタートすることになっています。(2020年12月12日に授業目的公衆送信補償金制度が認可)
学校その他教育機関の設置者が届出を提出すると制度に加入することができるようになっていて、受付は一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会 (略称:SARTRAS[サートラス])という文化庁長官から指定を受けた法人が請け負っています。
3.運用指針の一部を抜粋
● 許可されている人
学校その他の教育機関において教育を担任する者と、授業を受ける者です。営利を目的として設置されていなければ一条校出なくても対象となります。
● 使用目的
授業の過程において利用する。そのため、保護者会や職員会議、単位が認められない課外活動での使用は認められていません。
●使用限度=必要と認められる限度
クラス単位や授業単位(大学の授業などクラスの単位を超えるものはは当該授業の受講者まで)の利用
また、授業参観や研究授業の参加者への配布も認められています。
●認められていること
・公表された著作物を複製する
・公衆送信し、公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達できる
・ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は禁止
<公衆送信の該当例>
・学外に設置されているサーバーに保存された著作物の、履修者等からの求めに応じた送信
・多数の履修者等(公衆)への著作物のメール送信じた送信
・学校のホームページへの著作物の掲載
・テレビ放送
・ラジオ放送
4.補償金額
急遽、施行が始まった2020年度では「無償」となっていますが、2021年度から、「教育機関を設置する者は著作権者又は著作隣接権者に補償金を支払わなければならない」と定められています。
1 人当たりの補償金額(年額) ※一部抜粋
・幼稚園 60 円
・小学校 120 円
・中学校 180 円
・義務教育学校 1 学年~6 学年 120 円/7 学年~9 学年 180 円
・高等学校 420 円
・専攻科 720 円
・中等教育学校 1 学年~3 学年 180 円/4 学年~6 学年 420 円/専攻科 720 円
・高等専門学校 1 学年~3 学年 420 円/4 学年~5 学年 720 円/専攻科 720円
・大学 720 円
・特別支援学校 幼稚部 30 円/小学部 60 円/中学部 90 円/高等部 210 円/専攻科 360 円
5.出版社に問い合わせがある問題集については?
教育出版社に勤めている筆者ですが、先生方から教科書や問題集の複製に関する問い合わせを受けることとが多々あります。運用指針については下記のように記載されているものの、出版社側でも著作権に関する方針を明示しておく方が教育現場の方にとって親切なのかもしれません。
<著作権者の利益を不当に害する可能性が高い例>
●文書作成ソフト、表計算ソフト、PDF 編集ソフトなどのアプリケーションソフトを授業の中で使用するために複製すること
●授業の中ではそのものを扱わないが、学生が読んでおいた方が参考になると思われる文献を全部複製して提供すること
●授業を担当する教員等及び当該授業の履修者等の合計数を明らかに超える数を対象として複製や公衆送信を行うこと
●授業の中で回ごとに同じ著作物の異なる部分を利用することで、結果としてその授業での利用量が小部分ではなくなることを対象として複製や公衆送信を行うこと
●授業を行う上で、教員等や履修者等が通常購入し、提供の契約をし、又は貸与を受けて利用する教科書や、一人一人が演習のために直接記入する問題集等の資料(教員等が履修者等に対して購入を指示したものを含む。)に掲載された著作物について、それらが掲載されている資料の購入等の代替となるような態様で複製や公衆送信を行うこと(ただし、履修者全員が購入していることが確認されている場合であって、問題の解説とうを行う目的で負荷的に複製とうを行うことは許容される余地がある。)
●美術、写真等であって、必要と認められる範囲で全部の利用が認められている著作物を、市販の商品の売上に影響を与えるような品質で複製したり製本したりして提供すること
●授業のために利用するかどうか明確でないまま素材集を作成するような目的で、組織的に著作物をサーバへストック(データベース化)すること
●MOOCs(大規模公開オンライン講義、誰でもアクセスできる)のような態様で、著作物を用いた教材を公衆送信すること
<改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版>より抜粋
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