「七人の侍」野武士考⑮ 落ち武者狩り

(「七人の侍」を見た前提で書いてます)

野武士と侍を結びつけるキーワードとして「落武者狩り」があります。

落武者狩りは敗軍の武将を百姓が竹槍で追い回して、殺すか身ぐるみ剥いで金品に換える、と言った行為で、戦国時代の日常です。

この映画でも自分達が護ろうとしていた百姓達が、実は日常的に落武者狩りをしていたことが判明します。侍たちの表情が一変します。

(01:28:30)

何があっても動じない、加東大介演じる七郎次が、

「貴様、それでも侍か!この鎧は百姓が侍を突っ殺して手に入れた品物だぞ」と激昂し、「くそっ」と百姓に槍を投げつけます。

リーダーの官兵衛も「落ち武者になって竹やりに追われた者でなければ、この気持ちはわからん」と不快感をあらわにします。

とりわけ平八(千秋実)が「俺はこの村のやつらが、斬りたくなった」と、囲炉裏に火箸を突き立てながらつぶやくシーンは、陽気な平八とのギャップでドキリとします。

落ち武者狩りを知ったときの侍たちの憤懣やるかたないセリフ。実はこれらはすべて野武士達の百姓への憎しみの代弁になっています。

野武士にとって百姓は単なる簒奪の対象ではないということです。かれらも武士だった頃、落武者狩りにあい、瀕死の目にあっていいるはず。目の前で主君や同胞を百姓に殺された過去が彼らにもあるかもしれません。

この映画には野武士側の人物描写は殆ど出てきません、彼らに与えられた言葉は殆どありません。しかしそれらは実はすべて侍たちが代弁してくれているのです。

彼らを単なる粗暴な無法者と決めつけてしまうのは、間違いかもしれません。野武士にとって、まず百姓たちは憎しみの対象でもあるのです。

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