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「七人の侍」野武士考⑰野武士に最も近い侍は誰か?

(「七人の侍」を見た前提で書いています)

この映画で異彩を放つ侍、菊千代。もともと百姓の出です。

(01:36:39)

平八「これは田んぼのたの字、つまり百姓達。この村だな。」

菊千代「はーん、この丸は」

平八「俺たちだ」

菊千代「なんだ、六つしかねえじゃねえか、俺は のけものか」

平八「いや この三角が 菊千代様だ」

(一同 笑)

百姓に最も近い存在である菊千代のおかげで、侍と百姓はつながっています。彼なくして百姓と侍の共闘はあり得ませんでした。

冒頭からラストまで物語をダイナミックにかき回すトリックスター。この映画においても必須の存在です。

実はこの菊千代と対照的な、野武士に近い侍が存在します。野武士と侍をつなぐ、四角のような、映画の中で静かに少しずつ存在感を増していく侍。

久蔵です。若き侍、勝四郎(木村功)が崇拝する侍の中の侍。

勝四郎「あの人こそ本当の侍です。豪胆で、腕はすごいし、心は優しいし、それに種子島を分捕ってきたって少しも誇らないし、」(00:56:48)

剣、人格、士道すべてを兼ね備え、難しい仕事も平然と遂行する。ストイックさも魅力です。

一方で、ただの練習試合のはずが結局、真剣で人ひとり斬ってしまい、

勘兵衛「すごい 自分をたたき上げる それだけに凝り固まった奴での 果たして うんとは申さん」(00:50:10)

求道者が行き過ぎて修羅となったような一面もあります。最初は百姓を助けたいというより、己の剣の追求のため、戦いの場を求めて、といった感じの参戦ではないでしょうか。

加えて落ち武者狩りをしていた百姓に対し、

「俺は この村のやつらが 斬りたくなった」(01:28:30)

という言葉。既に述べたようにこれは野武士の代弁です。百姓に向けた怒気・殺気。

その後の菊千代が

「よく聞きな百姓ってのはな、けちんぼで、ずるくて、泣き虫で、意地悪で、間抜けで、人殺しだ!」「だがなこんなケダモノ作りやがったのは一体、誰だ? おめえたちだよ 侍だってんだよ」(01:31:00)

この菊千代と久蔵のやり取りは、百姓と野武士の代理闘争だったのかもしれません。

最も理想に近い侍でありながら、最も野武士に近い人物、それが久蔵です。

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