「七人の侍」野武士考㉒ 全文まとめ

結論

 黒澤明監督映画「七人の侍」をご覧になったことがありますでしょうか?私は10代の頃に初めてこの映画を見て、以来30回以上は見ています。何度見ても新しい発見があり、世界的な傑作映画だと思います。
 この「野武士考」は映画の悪役、野武士達に焦点をあて、「侍」と「野武士」と「大戦時の日本兵」がニアリィイコールの存在ではないかという仮説のもと、Noteで21回に書き分けたものです。今回、とっちらかった部分を修正しながら1本にまとめました。

 論じ尽くされた感のある映画ですが、野武士にあまりスポットを当てたものを読んだことがありません。劇中、彼らの人物描写がほとんど無いからかもしれません。もし新たな映画の魅力を提示できたなら幸いです。
 きっかけは映画のラスト10分、小屋から抜け出す半裸の野武士の一コマでした。その直後三船敏郎の演ずる菊千代が、野武士の頭目を倒しますが、その野武士は生死不明のまま、姿を消すのです。その後、調べたところ、最大5人の野武士に生存の可能性があることがわかりました。また、蛇足ですが40人のはずの野武士は41人いました。
 私はこの映画において、野武士は全滅したものと、ずっと思い込んでいたので興味を持ち、改めて調べてみることにしました。

 なぜ、野武士達は生き残ったのでしょうか?結論から言うと、主人公の「七人の侍」と「野武士」は、もともと同じ戦国時代に翻弄された「侍」であり、その野武士に対する侍たちの同情から、後災の憂いのない前提で全滅をさせなかった。ということではないかと思います。
 また、私はうかつにも何回見ても気づかなかったものですから、なぜこれほどまでに、わかりにくい描写なのか?ということについても考えました。
 これも結論から言いますと、製作者サイドがあくまでも娯楽映画として描くためではないかとおもいました。作品としてのカタルシスを損なわず、なにより先の戦争の影を落とさないためです。侍と野武士は、アジア・太平洋戦争の日本兵とも重なる存在だからです。

つまり「侍≒野武士≒日本兵」が「野武士考」の軸であり結論です。

映画の背景と補足説明

 「七人の侍」の舞台は天正14年(1586年)、ちょうど本能寺の変(1582年)が起こり、その後秀吉が関白(1585年)となっています。まだすべてが混とんとしていた時代です。
 本作における野武士集団は、おそらく元は主に使え、戦に出ていた「侍」です。少なくとも、頭目をはじめとする数人はそれなりに身分ある武士だったと思われます。野武士は、分岐した人生を歩んできた「七人の侍」のもう一つ姿です。

野武士≒侍であることを見いだすため、場面検証しました。
①物見の野武士を侍として扱い、助けたい思いを吐露する勘兵衛。
②落武者がりをする百姓への憎悪を露にし、野武士の代弁をする侍たち。
③野武士の戦闘組織としての洗練度の高さ。
④野武士にもっとも近い侍、久蔵の存在(菊千代の反対側に位置する侍

 一方映画のカタルシスを損なわないため、野武士殲滅せり、の雰囲気を重視しました。正義の勝利。この映画は百姓と侍の完全勝利による、爽快感が絶対的に必要なファクターです。
 そして戦争の影を隠す。「野良犬」「酔いどれ天使」「静かなる決闘」「素晴らしき日曜日」など、昭和20年代の黒澤作品は戦争の影響が強いものが多いです。反戦平和は黒澤監督の生涯のテーマです。ですがこの「七人の侍」に関しては、エンタメ作品として位置づけられ、戦争の影響はあまり指摘されてません。

 それでも恐らく、この映画にも戦争が影を落としています。特に兵站(へいたん)関連。兵站とはなにか?劇中、菊千代が兵站のある側面を端的に言い表しています。
 菊千代「戦のためには村を焼く 田畑踏ん潰す 食い物は取り上げる 人夫にはこきつかう 女はあさる 手向や殺す 一体百姓はどうすりゃいいんだ!」
 これは野武士の行為ではなく、レッキとした侍たちのやってきたことです。おそらく官兵衛たち七人の侍達も、ある程度は関与せざるを得なかったでしょう。だから彼らは黙りました。
 当時の日本にも、まだアジア・太平洋戦争の記憶は残っています。映画論ですから、多くは述べませんが、思い出したくない記憶もあると思います。

 野武士は侍のもうひとつの姿でもありましたが、日本兵の姿も重なっているのではないでしょうか。
 しかしこの映画のメッセージはそこにはなく「そのようなことはいっさい忘れて欲しい。これは娯楽映画だ。おおいに楽しんでくれ。百姓の勝利に、戦の終結に快哉を叫んでくれ」ということではないかと思います。

まとめ
Q .なぜ野武士は生き残ったのか。なぜ、それはわかりにくい表現なのか?

A .七人の侍と野武士と日本兵は、ニアリィイコールの存在であった。そしてあくまで娯楽映画として描くためこれを隠した。

以上です。


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