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「スプリット オア スティール」から学んだ、相手を騙しても最終的には円満に終わる交渉方法

行動経済学の逆襲(下)の第30章『ゲーム番組出場者の「おかしな行動」』に「スプリット オア スティール」というゲームの事例が載っていました。

これがとても面白かったので、そのゲームの動画を見たのですが、動画も非常に面白くエキサイティング。

それが↓こちらの動画です。(最後にも動画貼るので、今見なくても大丈夫です)

この動画の何が面白かったのかを書いていこうと思います。


「スプリット オア スティール」とは?

この動画はイギリスの「ゴールデン・ボールズ」というバラエティ番組の「スプリット オア スティール」というゲームの一コマです。

ゲームの内容は以下の通りです。

- ゲームのプレイヤーは2人
- 司会者が1人
- プレイヤーは賞金を「スプリット(分け合う)」か「スティール(独り占めする)」か選択する
- 2人ともスプリットを選択した場合:賞金は山分け
- 1人がスプリット、もう1人がスティールを選択した場合:スティールを選んだ方が賞金を全額もらえる
- 2人ともスティールを選んだ場合:賞金は全額没収
- 30秒間程度の交渉時間を設ける
- 最後にお互いの選択(スプリット オア スティール)を同時に発表する

いわゆる囚人のジレンマに似たゲームになります。

※「ゴールデンボールズ」は実際には囚人のジレンマとは若干ルールが異なりますが、参考まで。


いかに相手にスティールさせないか

ゲームで一番得をするのは、自分がスティールして相手がスプリットした時です。その場合賞金は全額自分に入ります。

しかし相手がスティールをしてしまうと、こちらが何を出そうと獲得できる賞金がなくなってしまうのです。
(私スティール、相手スティールの場合:賞金募集
私スプリット、相手スティールの場合:相手に全額 となるため)

つまり、いかに相手にスティールさせないか(スプリットを選ばせるか)がゲームのキモとなって来ます。

なのでプレーヤーは30秒の交渉の間に、「私はスティールをするような人間じゃない」とか「あなたがスティールをしないことを願っている」などのトークを繰り広げます。しかし結局のところチープトークとなり、全く相手に響かないことが多いです。


相手を騙してスティールさせない方法

で、動画に戻ります。(最後にも動画貼るので、今見なくても大丈夫です)

画面向かって右のブラウンのシャツを着ている方が「ニック」。左が「イブラハム」です。

交渉が始まると同時にニックは下記のようにイブラハムに伝えます。

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「イブラハム、私を信じてくれ。私はスティールするが、賞金はあなたと分け合うと約束する。」

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今までのパターンだと自分はスプリットすると宣言する方は多かったものの、ニックはスティールすると言っています。しかも賞金を受け取った後に、イブラハムに半分渡すと言っています。

ゲームの内容をおさらいすると、もし山分けしたいのであれば、両者ともスプリットすれば何も問題ないのです。しかしニックはそうではなくスティールした後に分け合うと言っています。

もちろんイブラハムはそんな言葉信じないし、司会者もこのような約束は番組としては認められないと言います。ニックは賞金獲得後に分け合うと言っていますが、そんなの嘘かもしれません。(というか当然嘘だと思います)

しかしそんなことはお構いなく、ニックはスティールするの一点張りです。そうこうしているうちに決断の時間です。


だんだんイライラしてくるイブラハム。

すでに心は決まっているいるニック。

混乱するイブラハム。

決断を迫る司会者。

最後の最後に別の選択に変更するイブラハム!


結果、どのような判断になったかというと

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イブラハム:スプリット、ニック:スプリット!

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イブラハムはスプリットを選択し、スティールを出すと宣言していたニックもスプリットを選択したのです。

ということで、賞金が山分けになりました。

この判断に当然驚いたイブラハムと司会者(と観客)。イブラハムに至っては興奮が覚めやらず、ほっとしているような喜んでいるような表情。

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喜ぶイブラハム


なぜイブラハムはスプリットを選んだのか

イブラハムは最後の最後にスプリットに選択を変えたようにも見えました。おそらく最初はスティールを選んでいたはずのイブラハム。なぜ変えたのか。

冷静に考えてみると、スティールを選ぶというニックに対して、イブラハムの選択はスプリットしかなかったんですよね。

ルールをおさらいすると、ニックがスティールを選んでいる以上、選択肢は下記となります。

1. ニックがスティール、イブラハムもスティール:賞金没収
2. ニックがスティール、イブラハムはスプリット:ニックが全額ゲット

もし1を選択すると、賞金はもらえなくなります。
一方2の選択の場合、ニックは(口約束だけど)賞金は山分けしてくれると言っています。

となるとここは一旦スプリットで賞金をニックに渡して、その後交渉しようという考えになりそうです。(約束もしているし!)


なぜニックはスティールすると宣言したのか

なぜニックは最初からスティールすると宣言したのか。もう一度ゲームのおさらいをすると、いかに相手にスティールさせないか(スプリットを選ばせるか)がゲームのキモです。

つまり、自分が何を出すかは一旦置いておいて、相手にスプリットを選ばせることが必然になります。

相手にスプリットを選ばせる方法としては、相手がスプリットを出した方が得だという提案をすることです。つまり、今回ニックがした提案『自分がスティールを出して賞金をゲットする、かつ賞金は後で山分けする』という提案が一番有効です。

自分が何を出すかは考えず、ひたすら相手にスプリットを選ばせる方法を考えると確かにこうなりますね。すごい。


ニックがスプリットを選択することで得られるもの

宣言とは異なり、ニックはスプリットを選択します。ニックが最終的にスプリットを選択したことで、このゲームは大団円を迎えます。イブラハムの笑顔が何よりそれを表している。

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ニックとしては、最終的にスティールを選択して約束どおりイブラハムと分け合ったとしても、もらえる金額としてはスプリットした時と同じになります。しかしどう考えてもここでスプリットを選択し分け合っていた方が良いですよね。(番組終わってから分け合うのってなんだか気まずそうですし。)

しかもイブラハムはニックに対して『お前〜!騙すなよ〜!笑』みたいな感じになってますし。今後良い関係が築けそうな予感。

おそらくここは「新近効果」(「最後に与えられた情報でその人の印象が決定されやすい」という心理効果のこと)や「アンカリング効果」あたりが働いていそう。

ということで6分間の動画で色々興奮してしまったので長々と書きました。それではぜひ動画をご堪能ください。


こう言った交渉術を身に付けたいなと思って行動経済学勉強したりしてます。もしおすすめの書籍ありましたらご紹介くださいませ。


参考:

・行動経済学の逆襲 下


読んでいただきありがとうございます。