構造力学メモ(その3) 道路橋示方書の合成応力の照査とミーゼス応力

 道路橋示方書(H24)の鋼橋編では、垂直応力だけでなく、せん断応力とその両者を合成した応力についても照査することになっている。

 例えば、横桁などのついていない主桁の場合は、曲げによる垂直応力とせん断力によるせん断応力によって、以下の式で照査を行う。
$${\sigma_b}$$:作用する垂直応力(曲げによって発生する垂直応力)
$${\sigma_a}$$:垂直応力の許容値
$${\tau_b}$$:作用するせん断応力(せん断力によって発生するせん断応力)
$${\tau_a}$$:せん断応力の許容値

$$
\left( \frac{\sigma_a}{\sigma_a}\right)^2+\left(\frac{\tau_b}{\tau_a}\right)^2\leq 1.2
$$

 横桁などがついていて、溶接部に複雑な応力が作用する場所では、曲げによる2方向の垂直応力とせん断力によるせん断応力によって、以下の式で照査を行う。

$$
\left( \frac{\sigma_x}{\sigma_a}\right)^2-\left(\frac{\sigma_x}{\sigma_a}\right)\left(\frac{\sigma_x}{\sigma_a}\right)+\left(\frac{\sigma_y}{\sigma_a}\right)^2+\left(\frac{\tau_b}{\tau_a}\right)^2\leq 1.2
$$

$${\sigma_x}$$:作用する垂直応力($${x}$$方向)
$${\sigma_y}$$:作用する垂直応力($${y}$$方向)

 これらは、ミーゼス応力の照査を行っているのと同じことである。それを以下に説明していく。
 このような設計との関わりを見ていくとミーゼス応力がより身近に感じられるのではないだろうか。

1.ミーゼス応力(相当応力)を求める。

 ミーゼス応力については、以前の記事で紹介した通りだが、第二不変量$${J_2}$$との関係から求めてみよう。

 応力テンソルというのは、測る方向、つまりはひずみゲージなどを貼る方向だとか、計算を行うときに設定した座標系によって値が異なってしまう。 
 しかし金属のような材料は、1軸方向で引っ張る時、試験片を大きな1枚の板から色々な場所、色々な方向で切り出した材料でも、同じような1軸方向で引っ張ると、同じように変形し同じように破壊に至る。
 このような性質を等方性という。
 等方性のある材料では、座標系や測る方向で数字が変わってしまう応力テンソルは不便である。そこで座標系や測る方向に依存しない値が欲しい。
 
 そのような値の候補としては、前回の記事で紹介した主応力があげられる。主応力=固有値であり、固有値は座標変換を行っても変化しない量(スカラー)である。
 破壊の法則を数式化すると、例えば、各主応力で構成される式がある値$${C}$$に達したとき破壊(降伏)する、という話は以下のように表現できる。こういったものを降伏条件という。

$$
F(\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3)=C
$$

 もう一つの候補が、各不変量である。主応力は前回紹介したように、各不変量で表現される。

$$
F(\sigma_1(\sigma_m,J_2,J_3),\sigma_2(\sigma_m,J_2,J_3),\sigma_3(\sigma_m,J_2,J_3))=C 
$$

 これは、整理すると以下のように表現できる。

$$
G(\sigma_m,J_2,J_3)=D
$$

 さらに、平均応力$${\sigma_m}$$は、すべての方向から作用する静水圧と同じもので、金属のような材料の場合は静水圧では壊れないことが知られている。$${J_3}$$は、$${\cos3\theta}$$で表すことができ、コサインの大きさはあまり大きくないため、これも降伏条件に関係ないとしよう。

$$
G(J_2)=D
$$

 簡単な応力状態のときに、この降伏条件を求めることができれば、より複雑な応力状態の時も同じ降伏条件が使える、と考えられる(実際に、多くの実験結果から、金属についてはそれが正しいことが示されている)。

 そこで、まず一番簡単な応力状態と考えられる一軸引張を考える。
 一軸引張の時は、引張応力$${\sigma}$$が降伏応力$${\sigma_Y}$$になった時、降伏する。この条件からGとDの形を求めらる。

 一軸引張応力$${\sigma}$$の応力テンソルは、以下のようになる。

$$
\sigma_{ij}=\begin{bmatrix}
\sigma & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{bmatrix} 
$$

 ポアソン比で、引っ張っている方向とは垂直な方向に応力が発生するのではないか?と思うかもしれないが、それはひずみの話なので、通常の試験片などの1軸引張の場合の応力テンソルはこれでいい。試験片よりも形が複雑なものや支持条件が違うものを1軸方向に引っ張ったら、色々な方向に応力が発生することはある(例えば、コンクリートの円柱供試体の割裂引張試験など)。

 平均応力は$${\sigma_m=(\sigma+0+0)/3}$$なので、偏差応力テンソルは以下のようになる。

$$
s_{ij}=\begin{bmatrix}
2\sigma/3 & 0 & 0 \\
0 & -\sigma/3 & 0 \\
0 & 0 & -\sigma/3
\end{bmatrix} 
$$

この時、$${J_2}$$は、前回紹介したように、以下の式で計算できる。これは、簡単に言うと、各成分の2乗和を1/2すればいいだけなので、

$$
J_2(\sigma)=\dfrac{1}{2}\sum_i\sum_js_{ij}s_{ij}=\dfrac{1}{3}\sigma^2
$$

この$${\sigma=\sigma_Y}$$のとき、破壊(降伏)するので、

$$
J_2=\dfrac{1}{3}\sigma_Y^2
$$

これは、つまり先ほどの降伏条件が以下のように表現できると考えられる。これがミーゼスの降伏条件と呼ばれるものである。

$$
G(J_2)=D       \rightarrow       3J_2=\sigma_Y^2
$$

この条件は、さきほどの$${\sigma}$$の式から、

$$
J_2(\sigma)=\dfrac{1}{3}\sigma^2      \rightarrow     \sigma_{eq}=\sqrt{3J_2}
$$

とも表すことができる。このときの$${\sigma_{eq}=\sqrt{3J_2}}$$をミーゼス応力や相当応力と呼び、これが降伏応力に達したら、降伏すると判定することができるのだ。そして、$${J_2}$$は、どの方向から測っても値は変わらない量(スカラー)であり、9個も成分を持っている応力テンソルと比べると非常に扱いやすい。

$${\sigma_{eq}=\sqrt{3J_2}}$$は、偏差応力を求めて計算してもいいが、前回計算したように、偏差応力や平均応力を求めずに計算する式がよく用いられれる。

$$
\sigma_{eq}=\sqrt{\dfrac{1}{2}\left\{ (\sigma_x-\sigma_y)^2+(\sigma_y-\sigma_z)^2+(\sigma_z-\sigma_x)^2 +6\tau_{xy}^2 +6\tau_{yz}^2+6\tau_{zx}^2  \right\}}
$$

2.純せん断時のせん断応力の許容値

 せん断応力だけが作用する、純せん断時の降伏を考え、せん断応力の許容値を求めてみる。純せん断時の応力テンソルは、以下のようになる。

$$
\sigma_{ij}=\begin{bmatrix}
0 & \tau & 0 \\
\tau & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{bmatrix} 
$$

 このときのミーゼス応力(相当応力)は以下のようになる。

$$
\sigma_{eq}=\sqrt{3\tau^2}
$$

これが$${\sigma_Y}$$になったとき、破壊(降伏)するので以下のようになり、純せん断時は、一軸引張時に比べて許容値が$${1/\sqrt{3}}$$に低下することが分かる。

$$
\sigma_{eq}=\sqrt{3\tau^2}=\sigma_Y      \rightarrow      \tau_Y=\dfrac{\sigma_Y}{\sqrt{3}}
$$

3.垂直応力とせん断応力が作用する場合

 曲げなどによる垂直応力と、せん断力によるせん断応力が作用する場合の降伏を考え、その時の照査方法を求めてみる。このときの応力テンソルは、以下のようになる。

$$
\sigma_{ij}=\begin{bmatrix}
\sigma & \tau & 0 \\
\tau & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{bmatrix} 
$$

 このときのミーゼス応力(相当応力)は以下のようになる。

$$
\sigma_{eq}=\sqrt{\dfrac{1}{2}\left\{(\sigma-0)^2+(0-0)^2+(0-\sigma)^2+6\tau^2\right\}}=\sqrt{\sigma^2+3\tau^2}
$$

これが$${\sigma_Y}$$になったとき、破壊(降伏)するので以下のようになり、垂直応力とせん断応力が作用する場合は、以下のようになる。

$$
\sigma_{eq}=\sqrt{\sigma^2+3\tau^2}=\sigma_Y
$$

$$
\sigma^2+3\tau^2=\sigma_Y^2      \rightarrow      \left(\dfrac{\sigma}{\sigma_Y} \right)^2+\left(\dfrac{\tau}{\sigma_Y/\sqrt{3}}\right)^2=1
$$

$$
\sigma^2+3\tau^2=\sigma_Y^2      \rightarrow      \left(\dfrac{\sigma}{\sigma_Y} \right)^2+\left(\dfrac{\tau}{\tau_Y}\right)^2=1
$$

H24年の道路橋示方書では、許容値は、安全率$${\gamma}$$を見込んで$${\sigma_a=\sigma_Y/\gamma}$$としている(H29年以降は考え方が少し変わっている)。
なので、垂直応力の許容値、せん断応力の許容値はすでにある程度安全率を見込んでいるので、合成応力の時は許容値を10%程度割り増しして基準を少し緩めている。

$$
\left(\dfrac{\sigma}{1.1\sigma_a} \right)^2+\left(\dfrac{\tau}{1.1\tau_a}\right)^2=1               \rightarrow            \left(\dfrac{\sigma}{\sigma_a} \right)^2+\left(\dfrac{\tau}{\tau_a}\right)^2=1.21
$$

 この式が1.2以下になれば、破壊(降伏)しないことが分かる。

4.垂直応力(2方向)とせん断応力が作用する場合

 主桁と横桁などが交差する場所などで、2方向の曲げなどによる垂直応力と、せん断力によるせん断応力が作用する場合の降伏を考え、その時の照査方法を求めてみる。このときの応力テンソルは、以下のようになる。

$$
\sigma_{ij}=\begin{bmatrix}
\sigma_x & \tau & 0 \\
\tau & \sigma_y & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{bmatrix} 
$$

 このときのミーゼス応力(相当応力)は以下のようになる。

$$
\sigma_{eq}=\sqrt{\dfrac{1}{2}\left\{(\sigma_x-\sigma_y)^2+(\sigma_y-0)^2+(0-\sigma_x)^2+6\tau^2\right\}}\\
=\sqrt{\dfrac{1}{2}(\sigma_x^2-2\sigma_x\sigma_y+\sigma_y^2+\sigma_y^2+\sigma_x^2)+3\tau^2}
$$

$$
\sigma_{eq}=\sqrt{\sigma_x^2-\sigma_x\sigma_y+\sigma_y^2+3\tau^2}
$$

これが$${\sigma_Y}$$になったとき、破壊(降伏)するので以下のようになり、垂直応力とせん断応力が作用する場合は、以下のようになる。

$$
\sigma_{eq}=\sqrt{\sigma_x^2-\sigma_x\sigma_y+\sigma_y^2+3\tau^2}=\sigma_Y 
$$

$$
\sigma_x^2-\sigma_x\sigma_y+\sigma_y^2+3\tau^2=\sigma_Y^2     
$$

$$
\left(\dfrac{\sigma_x}{\sigma_Y} \right)^2- \left(\dfrac{\sigma_x}{\sigma_Y} \right)\left(\dfrac{\sigma_y}{\sigma_Y} \right)+ \left(\dfrac{\sigma_y}{\sigma_Y} \right)^2+\left(\dfrac{\tau}{\sigma_Y/\sqrt{3}}\right)^2=1
$$

$$
\left(\dfrac{\sigma_x}{\sigma_Y} \right)^2- \left(\dfrac{\sigma_x}{\sigma_Y} \right)\left(\dfrac{\sigma_y}{\sigma_Y} \right)+ \left(\dfrac{\sigma_y}{\sigma_Y} \right)^2+\left(\dfrac{\tau}{\tau_Y}\right)^2=1
$$

 先ほどと同様に10%の割り増しを考慮して、降伏応力を許容値に変えると以下のようになる。

$$
\left(\dfrac{\sigma_x}{\sigma_a} \right)^2- \left(\dfrac{\sigma_x}{\sigma_a} \right)\left(\dfrac{\sigma_y}{\sigma_a} \right)+ \left(\dfrac{\sigma_y}{\sigma_a} \right)^2+\left(\dfrac{\tau}{\tau_a}\right)^2=1.2
$$

5.おわりに

 道路橋示方書の、垂直応力とせん断応力の合成応力の照査式が、ミーゼス応力と深く関連していることが分かった。
 ミーゼス応力は、計算式がかなり複雑なもので、はじめて見た時は難しく感じるが、実は、このミーゼス応力(相当応力)が降伏応力に達するか達しないだけで、破壊(降伏)を判定できる非常に便利な値である。
 実際、道路橋示方書の照査式との関連で、ミーゼス応力になれることができるのではないだろうか。
 ただ、まだ、ミーゼス応力とはいったい何なのか、イメージがつきづらいところもあると思う。今後、八面せん断応力や最大せん断応力、変形エネルギーとの関係を記事にしたいと思う。
 

その4


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