国際社会における国家の行動原理

1.原理


今月3日の深夜、寝床の中で、ある考えが頭に浮かびました。

国際社会における諸国家の行動原理についてです。それは下記の通りではないでしょうか。
もっとも、これは現在の暫定的な考えであり、将来修正の余地ありです。

第一。すべての国は、自国の利益(1)を追求している。

第二。そのような諸国で構成される国際社会は、力の論理で動いている。
第二次世界大戦以降の国際社会も、基本的に、それは変わらない。

第三。各国の国内法とは違って、物理的強制力を有しない国際法等は、いわば、努力目標にすぎない(2)。

第四。すべての国は、とりわけ大国や強国は、国際法等よりも、自国の安全保障(1)や勢力圏の保全(6)を優先する。

第五。アメリカもロシアも中共もイスラエルも、そのように行動してきたし、そのように行動している。

以上の、国家の行動原理は、元々は大国や強国の行動を理解するために考えたものですが、小国や弱国のそれにも適用しうることに気がつきました。

2.モンゴルの場合

たとえば、いわゆる大国でも強国でもないモンゴルの場合を考えてみましょう。

昨年3月、国際刑事裁判所(ICC)は戦争犯罪容疑で、プーチン露大統領に対して、逮捕状を発行しました。
今年9月2日、ノモンハン事件85周年の記念式典などに出席するため、同大統領はモンゴルを訪問しました。
モンゴルはICC加盟国であり、拘束の義務がありますが、プーチン氏を逮捕しませんでした(3)。
なぜモンゴルは、プーチン氏を逮捕しなかったのでしょうか。

第一。モンゴルは、自国の利益を追求している。

第二。国際社会は、力の論理で動いている。
モンゴルは、全土を大国ロシアと中共に挟まれている。ロシアと中共の軍事力や経済力と比較したら、同国のそれは微々たるものにすぎない。

第三。国際刑事裁判所の決定は、いわば努力目標である。

第四。モンゴルは、国際刑事裁判所の決定よりも、自国の安全保障を優先する。

第五。ロシアはプーチン大統領が逮捕されれば、激怒する。中共もプーチン氏の逮捕を望んでいない。
ロシアと中共に挟まれたモンゴルは、プーチン氏の逮捕という重大問題に対して、両国と異なる立場をとることはできない。

その他、「2023年にモンゴルに供給されたガソリンやディーゼル油の9割以上がロシア産だった」という(3)。

故に、モンゴルはプーチン氏を逮捕できなかったし、しなかった。

プーチン氏が逮捕されなかった理由が、一応説明できました(4)。

3.日本の場合

では、日本の場合はどうでしょうか。

第一。日本は、自国の利益を追求している。

第二。国際社会は、力の論理で動いている。
東アジアは、米支露の角逐の場所であり、北朝鮮も核兵器保有国になった。
そのような東アジアにおける日本の対外政策の基調は、アメリカとの協調である。

第三。国際法等は、いわば努力目標にすぎない。

第四。日本は、国際法等よりも、自国の安全保障を優先する。それ故、国際法等よりも、対米協調を優先する。

第五。イラク戦争でアメリカを支持したのもそのためであるし(5)、現在の対ウクライナ支援も、実質的には対米支援である。

日本の行動原理も、説明できました。

【追記】
一部修正します。というより、追加です。「1.原理」の、

第四の2。すべての国は、自国の安全保障に抵触しない限り、国際法等を遵守する。
(2024・10・7)

【注】
(1) 「国益」という言葉は多義的で、瑣末なそれもその概念に含まれそうだったので、各々の箇所において「自国の利益」とか、「自国の安全保障」とかの言葉を使いました。
(2) なぜ「国際法等」を問題にするかといえば、それを一種絶対的な基準だと誤解している人たちが、少なからずいるからです。
(3)「モンゴル『中立政策を維持』 プーチン氏の逮捕拒否で弁明 米報道」他。
(4) 「メキシコのロペス・オブラドール大統領は8日、ロシアのプーチン大統領が10月1日に行われるシェインバウム次期大統領の就任式に出席した場合、逮捕するよう求めるウクライナ政府の要請を拒否した」
(「メキシコ大統領、ウクライナのプーチン氏逮捕要請を拒否」)
(5) 「アメリカ合衆国は国連安保理決議に基づかず、『テロとの戦争』の一環として、イギリスなどの『有志連合』による軍事行動として実行した」
(『イラク戦争』「世界史の窓」より)
(6)「勢力圏の保全」
かつてアメリカは自由主義圏の防衛のために、「自国の安全保障」とは直接関係のない朝鮮戦争やベトナム戦争をたたかいましたし、ウクライナ侵攻の目的の一つは、自国の「重要な安全保障問題」だとロシアは明言していますが、今侵攻も、あるいは勢力圏の保全の問題だと言えるかもしれません。


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