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亀山さんとのシンパシー

 最初はなにも意識していなかった。

 ぼくがアニラジの構成作家として「開眼」したのは、斎藤千和さんがパーソナリティの『ぱにらじだっしゅ!』(2005)であることは今まで何度も語ってきた。
 それまでも担当させていただいた『H×HR』『高田広ゆき』『ネギラジ』『孫ラジ』らも、もちろん好評ではあったのだが、なんとなく自分にとっては構成作家という「技術」が、それまではぼんやりとしていて、意識的でなかったのが『ぱにらじだっしゅ!』で覚醒するのだった。
 それは「原作のテーマやモチーフ、セリフなどをなるべく忠実にコーナー化する」といういわば「原作のラジオ化」である。これがそのまま直後の番組の『さよなら絶望放送』(2007)に受け継がれて、昇華することになる。
 原作のテイストをそのままラジオに移譲し、読者、リスナーからコーナーにメールをこれでもかと投稿してもらい、届いたメールを厳選して、リライトして、紹介する順番を考えて、と、この文章を書いている2024年の現在でも『仮面ラジレンジャー』などの番組で行なっている、いわゆる「構成T」の手法はここで確立した。

『ぱにらじだっしゅ!』と『さよなら絶望放送』は、ぼくにとてもよくなじんだ。今まで携わってきたどんなラジオよりも、「なぜかやりやすかった」のだ。

 絶望放送の配信中に、パーソナリティの神谷浩史さんが「音響監督の亀山さんが」「アフレコ中に亀さんが」とたびたび言及していた。当時はまだ「音響監督」という職業の方がアニメスタッフにいらっしゃる、ということすら、はっきり知ってはいなかった。
 なんとなく気になって調べてみると、音響監督さん(Sound Director)というのはアニメの「音」関係、スタジオで声優さんとアフレコ収録をし、録音した声優さんのお芝居と、音響効果やBGMをとりまとめてアニメの映像にはめる、というのが主な業務ということだった。
 そして「亀山さん」とは、亀山俊樹さんのことだった。Wikipediaのプロフィールを眺めてぼくは声を上げていた。

「あれー?この方、『ぱにぽにだっしゅ!』の音響監督もしていらっしゃるぞ!?」

 それが音響監督・亀山俊樹さんを初めて意識した瞬間だった。

 数年の月日が流れる。『さよなら絶望放送』が2011年で終了し、さらに2年後、ぼくは『のんのんびより』というアニメのアニラジ『のんのんだより』(2013)の構成を担当することになった。
 そしてこれがめちゃくちゃにおもしろかった。
 パーソナリティの村川梨衣さんと佐倉綾音さんのタッグが強烈で、そしてゲストにこられる小岩井ことりさん、阿澄佳奈さん、名塚佳織さん、佐藤利奈さん、福圓美里さん、新谷良子さんというメンバーが、それぞれ違った個性で、実にいいテイストを添えてくれた。
『のんのんだより』はぼくに居心地がよかった。原作の『のんのんびより』ではないが、何年かぶりに実家に帰って旧友と過ごしているような気すらした。そしていつ気づいたのか忘れたが、アニメ『のんのんびより』の音響監督も、また、亀山俊樹さんだったのだ。この時点でぼくはさすがに気がついていた。

「おれって…亀山さんが音響監督のアニメのアニラジ、めっちゃ得意かも!」

 だから、アニメ『SSSS.GRIDMAN』のアニラジ『とりあえずUNION』(2018)がめちゃくちゃ面白い番組になったとき、「やっぱりな!なにせ音響監督が亀山さんでおれが構成作家だからな!」と考えたほどだった。『ぱにらじだっしゅ!』『さよなら絶望放送』『のんのんだより』『とりあえずUNION』ぼくの代表的なアニラジと言っていい番組のうち、4タイトルがすべて、音響監督が亀山さんのアニメなのだ。これってけっこうな高確率なのではないか。少なくともぼくはそう感じた。
「まさか、そんなはずはないでしょう、音響監督がアニラジのテイストに影響を施す?そんなわけがない」と思われる方も多いはずだし、自分でも不思議なのだが、でも実際にそうなのです。これはぼくの実感なのです。

 亀山さんのキャストの布陣は、まず、中心をしっかり据えて、ぶれさせない。『ぱにぽにだっしゅ』ならレベッカ宮本、『さよなら絶望先生』なら糸色望、『のんのんびより』なら宮内れんげ・一条蛍・越谷夏海・越谷小鞠、『SSSS.GRIDMAN』なら響裕太と宝多六花、この主人公たちが不動の存在感を占める。
 そして、主人公をとりまく人びと、他のキャラクターの個性を豊かに際立たせる、雑な言い方をすればてんでバラバラ、ちょっと言葉を変えれば、バラエティに富んでいる。そしてその個性がほとんどかぶっていない。全員の個性をはっきりさせつつ、かつ、別々の立ち位置を用意するキャスティングとディレクション。
 そして、ここまで整ったアニメのキャラクターの布陣を、アニラジにするのはしごく簡単。主人公が不動ならしっかり主人公のキャストをそのままパーソナリティに据える。そしてゲストとしてスタジオに来て下さるキャストの方たちは個性がバラバラであるなら、ゲスト各回の印象がそのたびごとに全然変わり、バラエティが豊かで、クオリティが高くなるのは明白だ。
 
 ぼくが担当した亀山さんアニラジの最近作はアニメ『SSSS.GRIDMAN』のアニラジ『とりあえずUNION』なので、こちらを例に挙げてみる。
 まず、パーソナリティが広瀬裕也くんと宮本侑芽ちゃんだった。ここでもちょっと奇跡が起こっていてこのお2人が年齢も一緒で声優としても新人と言ってよく、主演を務めるのも初という共通点があって、仲が良く…そして、聴いた人ならわかると思うが…とてもポンコツでした。愛されるポンコツでした。
 パーソナリティが新人ということは、ゲストさんはみな先輩ということになる。この関係性もはっきりしていてよかった。そしてゲストのメンバーもすごかったですよー。緑川光さん、斉藤壮馬さん、上田麗奈さん、高橋良輔さん、小西克幸くん、悠木碧さん、松風雅也さん、新谷真弓さん、三森すずこさん、鬼頭明里さん、高橋花林ちゃん、稲田徹さん、鈴村健一さん!どうですか、豪華でしょう、豪勢でしょう、そしてみなさんのキャラクターがバラバラでしょう。そしてね、このメインキャストさん、全員1回ずつ以上ゲストに来たんですよ。これで面白くならないわけがない。そして実際に『とりあえずUNION』は面白いアニラジだった。

「でも、それってどのアニメでもいっしょなんじゃないですか? どの作品も、主人公をしっかり中心に据えて、他のキャラクターをそれぞれ際立たせるのが鉄則なのでは?」という疑問が湧く方もいるでしょう。
 はい、その通りです、ぼくもおっしゃる通りだと思うのです。だから、亀山さんが音響監督のアニメが、ぼくにとってなぜこんなに相性がいいのか、その理由が自分でもわからないと言えばわからないんです。

 アニメ『SSSS.GRIDMAN』の打ち上げに参加させていただいたとき、亀山さんと実際にしばらく話す時間をいただけた。『のんのんびより』の打ち上げ以来の邂逅だった。「お久しぶりです。構成作家の田原です。絶望放送ではいじっちゃってすみませんでした」みたいに話していると、亀山さんがふと「ぼくはあなたにシンパシーを感じています」とおっしゃられた。
「それはぼくのほうが言いたかったことです」とぼくは驚いて言った。「ぼくは亀山さんが音響監督のアニメだと、アニラジがすごくやりやすいんです」

 そのあと、ぼくは考えた。音響監督さんは「原作」を渡されたとき、その原作のセリフやシーンをアニメの「音と声」にしようとする。ぼく、構成作家は「原作」のテーマやモチーフ、セリフなどをラジオの「トーク」に落としこもうとする。その考え方や手法が、似て非なる職業にもかかわらず、どこか、相通ずるものがあるのかもしれない。亀山さんとぼくは年齢も違うし、経歴も違う。しかし、「本質に迫るアプローチ」の点において、ぼくは亀山さんのお仕事にシンパシーを、親密感を覚えるのだ。

 





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