自分を犠牲にしても、あの人のために走る/近藤史恵「サクリファイス」

サクリファイス
―犠牲的行為。生け贄。


「サクリファイス」は、近藤史恵さんの自転車ロードレース小説「サクリファイス」シリーズの第一作目です。
近藤史恵さんといえば、ミステリーや恋愛など幅広いジャンルを手掛けており、個人的に、いちばん好きな作家さんでもあります。

今作は、自転車ロードレースがテーマの小説です。主人公の白石誓は、ロードレースの新人選手として様々な試合を転戦し、先輩のアシストをこなします。誓のチームのエースは、石尾豪。日本を代表する選手ですが、彼にはある黒い噂があり。。。熱く残酷な自転車ロードレースの世界を体現する青春ミステリーです。

この本は、こんな人におすすめ

①スポーツがテーマの群像劇が好きな人
②サスペンス系の小説が好きな人
③自転車ロードレースに興味がある人

それでは、この小説の魅力を紹介していきたいと思います、ぴょん!

*熱く、そして残酷な競技

この小説は、自転車ロードレースを全く知らないよりは、ある程度の予備知識があるほうがより楽しめると思います。
自転車ロードレースについて大雑把に説明すると、大会で勝つのは、エースと呼ばれる選手一人きり。けれど、ロードレースはチーム戦です。

それは、何故か。エースを勝たせるために、他のチームメイトはアシストに徹するからです。エースが走りやすいように風避けになることはもちろん、エースのタイヤがパンクした際には自分のタイヤを差し出すこともあります。なので、エースは、チームメイトの想いと勝つことの義務を負っています。そしてアシストのメンバーは、どんなに苦しい練習をし、大会のために体を作っていても、華々しく勝つことはありません。そんな、冷酷に勝者と敗者が分けられた競技なのです。

私は、エースの姿を、武士に重ねずにはいられませんでした。フランス発祥のスポーツではありますが、命懸けとも言える試合に、たくさんの人の想いと重圧を背負って臨む姿は、戦場に赴く武士そのものではないでしょうか。

*ミステリとしての読みごたえも抜群

この作品は、自転車ロードレースの世界をリアルに描いているだけでなく、ミステリーとしての読みごたえもあります。

謎を紐解いていく中で、タイトルの「サクリファイス」に隠された意味も見えてくるので、是非じっくりと読んでみて下さい。

そして、ただ重いだけの話で終わらないのは、さすが近藤史恵さんです。サスペンスのような緊張感もありますが、最後は誓のこれからの成長が楽しみになります。

この物語に漂うただならぬ緊張感に、こうさぎ、思わず耳を握りしめてドキドキしながら一気読みしてしまいました。

作品全体のぴんと張り詰めた空気、そしてタイトルの意味を理解したときの衝撃を、是非味わってみて下さい、ぴょん!


(2021年3月28日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正したものです。)

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