「温泉」とはなにか・1
「温泉ソムリエ」という肩書を持っておりますと、「〇〇って温泉沸かし湯なのに温泉って言ってる!」とか「〇〇温泉行くより高級入浴剤のほうが効果あるんちゃうの?」とか、意地悪な質問をされることがまれによくあります。
一応「温泉」と呼ばれるものは厳格な決まりがあるんですよ、という話を。
1)法律があります
勘違いされやすいのですが、温泉というものがなんなのかは、法律で決められております。「温泉法」と言います。「昭和二十三年法律第百二十五号」というもので、結構古い法律でございます。もっとも、作られてからこれまでほったらかしというものでもなく何度か改定されておりまして、この記事を書いている時点での最終改定は平成23年。そろそろ何らかの改定があるかもしれません。
ちなみに、温泉法以外にも温泉にまつわる法律は色々あります。薬事法とかね。あと、法律ではないのですが「鉱泉分析法指針」というのもあります。
「温泉」を名乗るには、それなりの決まりがあるのです。
2)「温泉」の定義
温泉法にはこのように書かれています。
第二条 この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。
温泉法より引用
文章は1文ですが、条件を明確にするとこの3つの条件を満たす必要があります。
・地面から湧き出ている
・液体か水蒸気かガス(メタンガスなどの天然ガスはNG)
・規定された温度より熱いもの、もしくは規定された成分が含まれている
地面から湧き出ていないとだめなので、海水はNGです。一部海水は湧き出てるのでは?という意見もあるのですが、現在存在する海の水と「湧き出ているとされる海水」とで成分が異なっていないと温泉とは呼べません。
(海底温泉と呼ばれるものの一部は、明らかにそこから噴出する湯水が海水と成分が違うので区分できるのです)
そして、水か水蒸気であること。ガスが噴出する温泉地はありますが、それは入浴というより「調理」とか「地熱」的な使われ方が大半な上に、だいたい入浴可能な水(お湯)があるので無視されがちです。あと、メタンガスや天然ガスは温泉の対象にはなりません。危険だから気をつけてね。
そして、「温度」か「成分」どちらかが温泉の規定に入れば、それは温泉となります。ただの真水だけど熱湯で湧き出ていたら温泉ですし、10度くらいのキンキンに冷えた湧き水だけど塩っぱくて成分を測ったら塩化ナトリウムの濃度が規定値以上だったらそれもまた温泉になります。
3)別表に書かれた温度と成分
引用した温泉法の部分には「別表に掲げる温度又は物質を有する」とあります。別表にはなんと書いてあるかと言いますと。
一 温度(温泉源から採取されるときの温度とする。)
摂氏25度以上
二 物質(下記に掲げるもののうち、いずれか一つ)(1kg中)
・溶存物質(ガス性のものを除く)総量1,000mg以上
・遊離二酸化炭素(CO2) 250mg以上
・リチウムイオン(Li^+) 1mg以上
・ストロンチウムイオン(Sr^2+) 10mg以上
・バリウムイオン(Ba^2+) 5mg以上
・総鉄イオン(Fe^2+、Fe^3+) 10mg以上
・第一マンガンイオン(Mn^2+) 10mg以上
・水素イオン(H2) 1mg以上
・臭化物イオン(Br^-) 5mg以上
・ヨウ化物イオン(I^-) 1mg以上
・フッ化物イオン(F^-) 2mg以上
・ひ酸水素イオン(HAsO4^2-) 1.3mg以上
・メタ亜ひ酸(HAsO2)1mg以上
・総硫黄(S) 1ms以上
※Hs^-+S2O3^2-+H2Sに対応するもの
・メタほう酸(HBO2) 5mg以上
・メタけい酸(H2SiO3) 50mg以上
・炭酸水素ナトリウム(NaHCO3) 340mg以上
・ラドン(Rn) 2nCi以上(=74Bq以上)
・ラヂウム塩(Raとして) 10^-8mg以上
……全部覚えなくていいです。25℃以上の湯が湧いているか、それより低くてもなんか成分が入っていたら温泉位の感覚で大丈夫です。そして、日本の場合、掘って水が湧き出たら、たいていなんかしらの成分が入っていたりします。むしろ真水(上記の成分が全部既定値以下でかつ25℃以下)が出ることがレア。
ちなみになぜ25℃なのかというと、日本全体の平均気温から算定されたそうな。あくまでただの地下水と区別するためなので、深く考えてはいけない。北海道とかですと25℃に満たない温泉(冷鉱泉ともいう)も多いです。気温が低いと水温も低くなるんだよね。
なお、海外の温泉の規定はどうかというと、日本より緯度が高いイギリスやドイツなんかは20℃、アメリカは21.1℃(=70°F)、逆に緯度が低い韓国や台湾は30℃だったりします。どこの国も切りのいい数字にしがちです。
4)沸かしていても温泉?
上記のように25℃以上ならば温泉ですし、25℃未満であっても成分が規定値以上ならば温泉です。ということは、源泉そのまんまだと冷たすぎて入れない「温泉」が普通に存在するのは理解できるかと思います。
あと、この「25℃以上」ってのは採水地、要は温泉が湧き出ている場所での温度になるので、温泉が山奥から湧き出てて麓の温泉旅館まで引っ張ってきたとすると、当然その間に湯は冷めるわけ。
なので、大半の温泉はボイラーなどで沸かしていることが多いです。温泉だしね。温かいお風呂に入りたいもんね。
なお、沸かし湯をしているというだけで「循環湯(=お湯をぐるぐる循環させて、濾過させてまた湯船に戻すやり方。昔の24時間風呂とかはこの形があった)」と決めつける人がいますが、加温(=沸かし湯)と循環湯は別の話なので要注意。
5)水増ししている温泉は?
加水と言うんですが、要は、温泉だけだと湯の量が足りないので水道水とか混ぜてるのではないかという話。
これはものすごく難しい話で、加水しないと危険な温泉があるのと、加水する水自体が成分が濃いケースと、本当にお湯の量が足りないので水増ししてるところとあるので、加水してる!ってだけで吹き上がるのは危険なのです。
ます、加水しないと危険な温泉。
一つは、単純にくっそ熱すぎる温泉。草津温泉なんかは、あまりに熱すぎるので何キロにも渡って樋を通して空冷させるっていう技を使って冷やしているのですが、そんな空間がどこでもあるわけではない。源泉と実際の湯船が近すぎる場合、熱すぎるという理由で川の水なんかを加水することがあります。
もう一つ、温泉成分が濃すぎる場合。硫黄とか酸性泉とかは、濃すぎると皮膚がボロボロになります。というか、下手すると死にます。ってなりゃ、薄めるしかないよね。
次に加水する水自体が成分が濃いケース。
温泉というやつは地中から湧き出ているものですから、源泉以外から湧き上がっていたり、地下水と混ざりあって川へ流れていったりするケースが多々あります。そういう川の水と混ぜて使うことで、温泉の成分の濃度をそこまで変えずに加水する方法もあるのです。
ちなみに、源泉は酸性だけど、近くの川の水はアルカリ性で、川の水と混ぜることによってpH値を調整する事もあったりします。
あとは普通に湧き出る湯の量が足りないケースですが。これも、年々噴出量が減ってきてるところが多いので、加水はやむなしというところもあります。少ない湯量ですと湯が汚れやすいのであまりよろしくないんですよね。
温泉を楽しみましょう
ちょっと長くなってきたので一旦ここまで。次回、かけ流しとか塩素臭いとか入浴剤問題とか、そのへんの話を詳しくできたらいいなと思います。
温泉って割と決まり事があったりします。けど、入浴者が安全に安心して温泉を楽しむためにあるのです。
なにか、疑問に思うこととかがあったらコメントなどで質問お待ちしています。
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