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【2024年創作大賞感想文】3人の感情に没頭できる~さちさん著「おはよう、私」~

さちさん著「おはよう、私」を拝読しました。
読んでいて感情がリンクすることが度々あるほど、登場人物の心の揺れ動きの表現がリアルで、とても勉強になりました。

これまで向き合えていなかった、自分の作品の手直しに踏み出そうと思えたきっかけの作品でしたため、フォロー外から恐れ入りますが、勝手ながら感想を書かせていただきます。


本作で特徴的なのは、1話、2話、3話と別の登場人物が語り手として物語を導いている点でしょう。そのため、この感想でも3者間での違いにスポットを当てて書いてみたいと思います。


1. 直接的な表現と比喩の使い分け

瑠璃:遠く聞こえるアラームの音が意識をたたく。
葵:アラームの音が意識に届く。
青磁:スマホのアラームで目が覚める。

さちさん著:おはよう、私


アラームが鳴ることで、各々の一日が始まる。語り手の物語が始まる大切な場面。
2行目から、すでに登場人物の捉え方の違いが表れています。

冒頭では、青磁→葵→瑠璃 の順で、徐々に直接的な表現から間接的な表現になっているように思いました。

そして、各々のストーリーが進む中で、その捉え方が変わらない語り手もいれば、途中で変わっていく語り手もいる。
私の感覚的な部分にはなりますが、そう感じました。

では、何が3者の物事に対する感覚の違いを生み出しているのか。
それは、3者間の自他の間にある境界線の守り方の違いなのではないかと考えます。

2.自他の境界線の守り方の違い


葵からの言葉に傷つく瑠璃。
他人の自由に憧れる葵。
他人の評価から、本当の自分を押し殺す青磁。

それぞれの登場人物は今の自分と、他人の期待や幸せとの間で葛藤を抱えています。

その中で、どう自分を守っていくのか。
自他の境界線の守り方に違いがあると感じました。

瑠璃:自分と向き合うことで自分の世界を守っている
葵:他人を意識することで自分の世界を守ろうとしている
青磁:境界線をつくろうともがいている

自分の世界が守れていると感じているときには
自分の中から生まれる「比喩的な表現」、
外から自分の世界が侵されそうなときや揺らいでいるときには
現実に近い「直接的な表現」。

そう描かれているように、読みながら感じておりました。


3.主観と客観の描かれ方

自分で思っている自分像と、他人から見えている自分が乖離していない人は少ないでしょう。

本作では、それぞれの登場人物がお互いの物語に関与しています。
そのため、語り手の主観ではこう感じていたけれど、他の人からの視点ではこう見えていた。
その描かれ方の差に、登場人物の感情が緻密に表れているように思います。

全体を通して、登場人物の感情描写がとても丁寧です。
近しい感情を抱いた経験をもとに、その感情を思い出して文章として再現されている。
だからこそ、人の感情に直接訴えかけてくる物語なのだと痛感します。

お互いにインスピレーションを与え合ったことで生まれたという楽曲も、読了後に触れたことで、とてもやさしい時間を過ごすことができました。

感情まで没頭できる読書体験を、ありがとうございました!


物語を通して、登場人物の感情に真摯に向き合われている姿勢を感じ取り
私自身、小説を書いている中で登場人物の感情の動きに向き合いきれていたのかという疑問がわいてきました。
ストーリーの都合上、無理やり感情をこじつけていなかったか。
もう一度向き合ってみようと思います。

今後も皆様の作品に稚拙ながら感想文を書かせていただきたいと思っています!
皆様の作品から、たくさん学ばせていただければ幸いです。
(勝手に感想文を書かせていただいておりますため、もし意に反すると感じられた場合には投稿を削除しますので、お知らせください)

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