見出し画像

【2024年創作大賞感想文】思いをつなぐ物語~福島太郎さん著「黒田製作所物語」~

福島太郎さん著「黒田製作所物語」を拝読しました!
私自身、小説執筆の初心者として多くを学ばせていただきました。

その中でも3つのポイントを取り上げて、稚拙ながら感想文を書かせていただきます!


①    余念のない設定


現実の場所や歴史に則っているからという理由があるかもしれませんが
設定に余念がないと感じました。

場面が変わるごとに社会やキャラクターの背景がインストールされるため、
前提を与えられた状態でストーリーを読むことができることで
容易に頭の中に情景が浮かんでくるのでしょう。

どれだけの情報量を頭に入れたうえで作品を書かれたのだろうかと思うほど、業界の復興の流れや法人化の話などが事細かに記されているため勉強にもなりました。

現実世界を舞台にすることは、事実性を高めなければいけない点に難しい課題があると思います。その課題をうまく味方につけていらっしゃいます。

②    行動から読み解く心理描写


私が小説を書いた時を振り返ると、セリフの間の心理描写で少し逃げてしまったと感じる部分があります。
本作では、そこを逃げずに細かく描写されているため、登場人物の内面がリアルに映し出されていると感じました。

特にそれを感じ取ったのが、冒頭の大高さんと虎一さんの会話です。

“大高は鉄クズなどによる日銭に加え、虎一が生きるための爪、溶接機を与えようとしていた。虎一に「生きろ」とエールを贈っていた。”

福島太郎さん著:黒田製作所物語


大高さんの不器用な優しさと、それに気づいても言葉を述べるのではなく、差し出された行為を素直に受け取ることで感謝を伝える虎一。

人の優しさは分かりやすいものでなく、行動の中から伝わってくるものこそが本物だと思います。
こうした人の行動の裏にある本物の思いを感じ取ることができました。

③    思いをつなぐ物語


“虎一にしてみれば同業者は敵では無い。寧ろ「溶接道」という悠久の昔から続く遙かな道を歩む仲間であり、弟子たちは未来への希望であると考えていた。”

福島太郎さん著:黒田製作所物語


本作を読んでいて、一貫したテーマとして「思いをつなぐ物語」があると感じます。

“皆、困ってうちに話を持ってくるから、できればその人たちの役に立ちたい。そのために仕事をしている。あんたにも同じ気持ちで働いて欲しい”

福島太郎さん著:黒田製作所物語

“社員であり協力企業であり、地域の方であり、極端な話、自分以外の全てを『顧客』として大事にしていました。”

福島太郎さん著:黒田製作所物語

大岡さん、虎一さん、弟子の方々、美希さん、冨塚さん……と。
この思いを人間として、会社として引き継いでいく。

繋いでいく人にとっては、目の前のあたりまえの行動かもしれません。
それでも、この思いを一人一人が引き継いでいくことで
黒田製作所が、溶接道が、未来へとつながります。

変化していく時代の中で会社を存続していくためには
その在り方を変える必要が出てきます。
しかし、藻掻きながらも、繋いでいく思いは変わらない。

そんな、思いをつなぐ物語だと感じました。


本作を読み始めるとき、これまでに触れたことの無い「溶接」を扱った作品であったため、話についていけるだろうかという不安がありました。
しかし、読み始めるとそんな不安はすぐに消え去ります。

読者目線で分かりやすくまとめられた文章。
作品を彩る人々の描写。
次々とテンポよく移り変わる場面。
全編を通して楽しんで読むことができました。

素敵な読書体験を、ありがとうございました!

#創作大賞感想 #創作大賞2024  #黒田製作所物語 #福島太郎


この記事が参加している募集

#創作大賞感想

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?