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恋愛の殉教者

恋文を代筆する、というシチュエーション。
なんだかロマンチックで、でも、相手に真摯でないイメージがあります。
だって、相手側に立ったら……胸をドキドキさせながらいざ対面して、それで恋文で聞いたことをまた尋ねてみたのに、なんか違う返答の仕方が帰ってきて、あれ……?って違和感を覚えたりするかも。
それが積み重なって、手紙ではこう言ってくれたよね!?って喧嘩になっちゃうかも……

『シラノ・ド・ベルジュラック』はまさにそんなシーンがある小説です。
主人公、シラノは学者で詩人で軍人、天下無双の剣客ですが……人からからかわれるほどの大きな鼻の持ち主。
彼が恋するのは、従妹のロクサアヌ。
しかし彼は、自身の持つコンプレックスから告白しても「鼻であしらわれるだろう」と思っています。
そんな中、同僚の色男、クリスチャンにロクサアヌと仲良くなりたいのに気の利いた言葉がとっさに出ないと相談を受け、シラノは思いつきました。
「(前略)俺が貸してやろう!君は、心を惑わす美しい肉体を貸してくれ。そして二人一緒に、小説の主人公になろうじゃないか!」
というわけで、宛名の書いていなかったロクサアヌ宛の文を手渡し、クリスチャンを見送るシラノ。
手紙のやりとりは順調でしたが……

手紙のやり取りをしているうち、クリスチャンが自分の言葉で口説けないことにうんざりしてしまい、自分で言葉を発したい!と思います。
なんとか文句をひねろうとするのですが……
「あなたを恋しているのです」という陳腐な言葉に、ロクサアヌも
「それは題(テマ)でございますわ。それに文(あや)をお附けになってご覧遊ばせな、文(あや)を」と、つれない返事。
さあ、このあとどうなるのでしょう、この三人は……

岩波文庫の辰野隆さん・鈴木信太郎さん訳が素晴らしいので、是非読んでみてください!

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