「滅びの序章」

とある国の村はずれで、農夫が畑を耕している横を、ものものしい装備の軍用車が砂煙をあげて通りすぎていった。農夫は一旦手を休め、ちらと走り去って行った軍用車の後ろ姿を一瞥したが、又畑作業に没頭していき、軍用車の事などそれきり忘れてしまった。ーあの一連の出来事が起こる前までは。

ーアメリカ、ワシントンD.C.。大統領を乗せたヘリコプターがホワイトハウスに到着した。待ちかねていた取材陣が詰め掛け、今か今かと大統領の現れるのを固唾を飲んで、いやスクープを誰よりも先にモノにしようと、これだけ報道陣が集まっちゃスクープもへったくれも無いのだが、涎を流さんばかりにシャッターを切ろうとレンズの焦点をまだ誰もいない取材場に合わせていた。そして現れた大統領は、いつもと違って冷静を、明らかに装おった、こんな芸は一流のアクターも足元にも及ばない程上手いし場数も、踏んでいる。そして皆の、いや全世界の前で発した言葉は、口数も少なに、一言、まるで一人言のように、こう言ったーー
「大丈夫。事態は収束に向かっている。」
大統領がこういう風に断言する時は、まず怪しいと読んでいい。国民を、ひいては世界を安心という名の心の鎮圧にかけようとしている、と。果たして、ーー世界は欺瞞に、引っ掛かった。

一部の人間を除いては。

ー 続くー

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