以前の記事で何件かご指摘をいただきまして、様々な文献や問題などを再確認しました。ご指摘、ご意見は様々な見直しを行う機会もあるため、非常に感謝いたしてます。
その上で少し踏み込んで話したいと思います。今回は文献引用が多いため、多少読みにくいかもしれませんが、ご了承ください。

指摘を受けた部分

まず、どういうところを指摘受けたかを話します。

全国の大名に行わせた参勤交代を幕府が行った目的を、簡単に説明しなさい。

これだとどうでしょうか。この問題になると、おそらく正答率はとたんに下がります。答え(例)は、「大名に往復費用や江戸での生活費を負担させることで、幕府に抵抗する力を奪うこと」、になります。(暗記のしかた 理社編より)

ここの太字部分で指摘を受けました。

この事についてですが、元々は言い回しが変わるだけで解答が変わる、という意図で話をしました。
実際、2020年の沖縄県ではその内容に近いことが出題されてます。

幕府は大名に何をさせるために、武家諸法度を設けたのか。経済的影響に着目して、「幕府は大名に( )ため」の形式に合わせて述べよ。(2020年沖縄県公立入試より)

と出ています。ここでの解答例は「(幕府は大名に)江戸での生活費や領地との往復費用を負担させる(ため)」です。
ちなみに、2017年高知県の入試問題でも藩の財政の影響についての記述問題が出てます(解答例は多くの費用がかかり、藩の財政を圧迫した、です)。

これについて気になったので、自分が今持っている用語集で確認をしました。

江戸時代、大名に義務付けられた、一年おきに領地と江戸を往復する制度。妻子は人質として江戸に住まわせられた。徳川家光が1635年の武家諸法度で定めたもので、往復の費用や江戸での生活費などで大名の経済的負担を大きくし、大名が反抗する力を持たないようにすることを目的とした。その一方で、江戸や宿場町などが繁栄した。(『中学社会用語集』旺文社より)

この用語集では指摘された部分のことが目的としてはっきりと書いてます。

1635年に徳川家光が制度化した。江戸での生活費、往復の大名行列にかかる費用は藩の財政を圧迫し、大名の経済力を弱めた。(『詳説用語&資料集社会』受験研究社より)

こちらの用語集では目的とは書いてません。恐らく影響・結果として書いてるのでは、と思います。

手元に中学教科書が現在ありませんが、ニューコース(Gakken)では参勤交代の内容だけ書いてます。パーフェクトコース(Gakken)では「江戸と領地の二重生活で財政的に苦しくなった」としか書かれてません。定期テストの対策ワーク(旺文社)では参勤交代のねらいとして、前述の指摘された部分が書かれてました(その他の参考書などで書かれてるものがございましたら教えてください)。

僕も中学生の市販問題集や参考書などで確認しましたが、いくつかの問題集や参考書などでは最初に指摘されたことが目的として書かれてました。そして、塾用の教材でもそのような記載がされていたのです。
恥ずかしながら僕もそのような指導をしていた、と自覚しており、今回の指摘を真摯に受け止めたいと思います。なお、中学教科書には記載はあっても目的ではなく影響・結果で説明されています

公立入試では、問題の言い回しに気を付けて解答してください(古い過去問や問題集を使われるかたは気をつけてください)。

日本史では

では、日本史ではどう書かれてるのでしょうか?シェアの多い詳説日本史(山川出版社)では幕藩体制の確立、という視点で書かれてる一方、大名は多額の出費を伴う重い役務だった、と書かれてます。中学生の教科書や参考書などとは違います。
新日本史(山川出版社)でも詳説に近いニュアンスで書いてました。日本史新訂版(実教出版)では、江戸滞在や往復に多額の費用を要したため、大名には大きな負担となった、とありますが、共通して言えるのは、前述で指摘された部分は目的ではないことがはっきりとしてます。

では、本当の目的とは?となったときに、「日本史の論点」(塚原哲也著・駿台文庫)ではこのように書かれてます。

参勤交代は大名の財政に大きな負担となり、その経済力を低下させる役割を果たしたとしばしば言われるが、それは影響であって制度化した意図ではない。(中略)
第一に、参勤は大名が将軍への臣従を示す行為であり、参勤交代は大名の将軍に対する忠誠を示す儀礼として制度化された
第二に、大名は参勤に際して一定規模の家臣団を引き連れており、参勤交代は平時における軍役の代替としての役割を果たしていた。(中略)つまり、参勤交代は、諸大名を絶えず軍事動員することによって将軍の求心力を確保し、大名の地方割拠を抑制するという役割を担っており、国内で戦乱が終焉した時代における大名統制の根幹であった

とあります。塚原先生からコメントをいただいたときも、影響であり目的ではない、というご指摘をいただきました(このコメントから様々な教科書、入試問題などを確認しました)。

こちらは東京大学で問題が出たとの話も聞いてます(1983年と聞いてます)。それに合わせて教科書記述は変わってきたのだと思います(中学教科書の話はツイートで簡単に話してます)。

お詫びも兼ねて

高校入試でも目的よりも影響(因果関係型)で問題が出てるため、この前の記事で書いてた目的は問題としては適切ではなかった、ということです。
ご迷惑をお掛けしたことをこの場を借りてお詫び申し上げます。なお、記事については修正させていただき掲載いたします。

ですが、今回のことがひとつのきっかけとなり、より精査する必要が出てきたと思います。僕も明日中学の新教科書で再度見たいと思います(聖徳太子の記述、参勤交代の記述など)。
これらご指摘を受けた部分はしっかりと精査して何かしらの形で報告できたら、と思います。
これからもよろしくお願いいたします。

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